デコラティブなゾウとともに伝統的なキャンデアンダンサーたちが踊る(撮影/松岡宏大)
デコラティブなゾウとともに伝統的なキャンデアンダンサーたちが踊る(撮影/松岡宏大)
ゾウの背中で黄金に輝くのが仏歯が納められているという容れ物。この行列のハイライトだ(撮影/松岡宏大)
ゾウの背中で黄金に輝くのが仏歯が納められているという容れ物。この行列のハイライトだ(撮影/松岡宏大)

 インド洋に浮かぶマンゴーのような形の小さな島国、スリランカ。周囲を海に囲まれ、一年中濃い緑に包まれる常夏の島は近年リゾート地としても注目を浴びている。

 観光客が増えたとはいえ、普段はのんびりとした雰囲気が漂うスリランカ。ただし、8月だけは例外だ。地元の人のみならず、世界中から集まる観光客で文字通り「身動きがとれない」状態になる。

 お目当ては古都の趣を残す町キャンディで行われる「エサラ・ペラヘラ祭」だ。

 スリランカの首都コロンボから車で約3時間。山あいの静かな町、古都キャンディはスリランカ最後の王朝が置かれた場所であり、また仏教の一大聖地でもある。約7割が仏教徒というスリランカの人々が日参するのが町の中心にある仏歯寺だ。スリランカ王権者の証であり、信仰の対象である仏歯(ブッダの歯)が祀られている。

 エサラ・ペラヘラ祭は王国時代から続くスリランカ最大の仏教祭典。毎年エサラ月(スリランカの暦。7~8月)に行われるペラヘラ(行列の意味)は、もともとエサラ月に行われていた雨乞いの儀式と、インドから持ち込まれた仏歯への崇拝を組み合わせたものといわれている。現在は、エサラ月の新月から次の満月までの約2週間にわたって行われる。

 エサラ・ペラへラの最大のハイライトは、最後の5日間に行われる大行列ランドーリペラヘラ。夕方ごろから仏歯寺一帯のパレード区域は車両進入禁止がかかり、できるだけいい位置で見物したい地元の人や観光客でみるみるうちに黒山のような人だかりができあがる。地元の人々は道の脇にびっしりと、観光客はテラス付きのホテルやカフェの特別席を確保して(こちらも身動きがとれないほど窮屈だが)、この壮大な行列を目撃しようとやってくる。一度場所とりをしたら最後、あとはペラへラが始まる日没まで、ひたすら待つのだ。

 待ちくたびれてきたころに、ようやくにぎやかな祭りの気配が遠くから届いてくる。アクロバティックに松明を回しながら踊るスリランカ伝統舞踊のダンサーたちに続くのは、電飾でデコデコに飾られたゾウの行列、太鼓を打ち鳴らしながら踊るダンサー、その後ろにも色とりどりの衣装をまとった大きなゾウたちが。これが延々と4~5時間にわたって続けられる。

 筆者がこのランドーリペラへラを3日間見続けて、ゾウの数をカウントしたところ、1回の行列の全出演ゾウ数はなんと約100頭! 間違いなく人生最多のゾウ目撃体験だった。

 華やかな踊りやゾウたちの行列も、拍手喝采で盛り上がる大興奮イベント。だが、この行列の一番の見どころは、実は観光客も居眠りを始める後半。仏歯が収められた黄金の容器を載せたゾウの登場で祭りはクライマックスを迎える。この名誉な役目を仰せつかれるのは、やはり体が特別大きいスターゾウ。しゃなりしゃなりと仏歯を運ぶ姿は、あたりを払うような存在感だ。

 仏歯を載せたゾウの登場で、会場の雰囲気は一変する。道端の人々は立ち上がり、頭を垂れて、静かに手を合わせる。

 仏歯を載せたゾウが通りすぎると、ほどなくして行列は終わる。道路封鎖も解かれ、人の波にもまれてさっきまでの喧騒が戻る。仏歯の登場までがあまりに長いためここを見ずに帰ってしまう観光客も多いが、この仏歯が寺外に持ち出されるのはこのときだけ。むしろ地元の人にとってはここが一番の醍醐味だ。

 ちなみに今年のエサラ・ペラヘラ祭のランドーリペラヘラは8月6日~10日(最終日の翌日11日は日中ペラヘラが行われる)。アジア最大ともいわれるこのお祭り、夏休みに旅行がてら見に行ってみるのはいかがだろう?