現代に生きる我々にとって、インターネットは社会に欠かせないインフラとなっている。現在、ネット利用者は日本国民の10人のうち8人。さらに、その半数以上がSNSを利用しているという数字も。2013年4月からの1年間で、パソコンからのネット利用者が350万人減少したのに対し、スマートフォンからのネット利用者は1100万人増加しており、ネットはいつでもどこでも使える「より手軽なもの」へとシフトしてきているのだ。

 重い辞書を書棚から取り出すことなく調べものをしたり、手軽にネットショッピングをしたり、また様々な人とコミュニケーションを容易に取ることができたりと、我々はネットを使うことで様々なメリットを享受している。しかし、その裏側には、犯罪に巻き込まれるリスクや情報漏洩の危険があるという実態がある。

「ネットの危ない使い方が世に溢れすぎている」と警鐘をならすのは、『ネット護身術入門』(朝日新書)の著者である守屋英一氏。日本IBM株式会社の経営品質・情報セキュリティ推進室に勤務し、同社内の不正アクセス事件等を担当する情報セキュリティのプロだ。

 最近ではネットを媒介にした事件がメディアで取り上げられることも多く、どのようにすればネットを安全に利用できるかについて関心が高まってきてはいる。しかし漠然とした不安はあるものの、実際にどのように行動すればよいかわからないという人が多いだろう。本書はそうしたぼんやりとした不安に対して、明確な対策を提示している。

 例えば、ある大学生がアルバイト先の飲食店で、バイト中に食洗機の中に横たわる写真をTwitterに投稿し、それがネットユーザーの目に止まり“炎上”した事件。一部メディアが報じるまで騒ぎは拡大し、結果的にその店舗は閉店に追い込まれた。「バイトテロ」とも呼ばれ社会問題へと発展し、SNSの利用方法を見直すひとつのきっかけとなった。一度炎上すると投稿内容を削除しても、第三者によって内容が保存され別のウェブサイトに“転載”されるのがネット世界の常。こうなると、半永久的に「一時の過ち」が残ってしまうので、ともかく、こうした馬鹿げた投稿をしないことが唯一にして最大の予防策だ。守谷氏は、本書の中でこうしたSNSでの炎上のメカニズムを丁寧に解説しつつ、SNSとの上手な付き合い方についても記述しているので、この箇所だけでも一読をオススメしたい。

 続いては、東京メトロの男性社員が業務用端末を使って知り合いの女性の乗降履歴を引き出し、ネットに公開した事件。これは、知らない間に個人情報が勝手に収集され取り扱われているケースである。この場合、いくらSNSなどで個人情報やそれにつながる書き込みを控えていても、どうしようもない。こうした特殊なケースに対しては、乗降履歴を特定されないよう、JR東日本のウェブサイト内の「Suicaに関するデータの社外への提供」というページで、「Suicaに関するデータの社外への提供分からの除外のご要望受付フォーム」から登録を行い、その際に無記名方式に設定することが必要となる。本書では、このような“もらい事故”的なネットトラブルについても、未然に防ぐ方法を伝授している。

 ネットの普及によって第三者とつながりやすくなり、公人と私人の境界が曖昧になったことで、現代を生きる私たちはいつどこでトラブルに巻き込まれてしまうかわからない。そして、今や誰かが安全を保障してくれる社会ではない。自分自身をしっかりと守る術を身につけることが安全への一番の近道なのである。そうした意味で、本書はネット社会に生きる我々にとって、ある種「バイブル」になりうる一冊とも言えるのではないだろうか。