新年明けて最初の宝くじ「グリーンジャンボ宝くじ」が、2月14日(金)に発売された。3月14日(金)の抽選日を楽しみにしている人も多いと思うが、数学エッセイストの小島寛之氏は、著書『数学的決断の技術』の中で「宝クジを買うことは著しく損な行動」と断言している。

 小島氏によると、「300円で購入した宝クジのもたらす賞金の期待値は約150円」だという。実際に2012年の年末ジャンボ宝クジの期待値を計算してみると、1等から6等までそれぞれに(賞金額)×(その賞金が当たる確率)を計算し合計すると、約150円。簡単にいえば、宝クジは「300円で150円を購入する」行為となる。

 それでもなぜ、人は損をするギャンブルを行うのだろうか?

 小島氏は、ギャンブルに参加する心理に「射幸心(しゃこうしん)」というものがあるという。射幸心とは、「あわよくば自分に大きな幸運が訪れるのではないか」という気持ちのことだ。

 射幸心からギャンブルに興じる人は、自分に1回だけものすごい幸運が訪れ、それが人生を根本的に転換することを望んで行動しているのだという。

 確率の理論によれば、宝クジを10億回、100億回と買い続ければ、ほぼ確実に1等を引き当てることができる。

 しかし、「膨大に買い続けていれば、いつか当たるだろう」となどという気持ちでクジを買っている人はほとんどいないだろう。ほぼすべての人は、「次の1回で当たるかもしれない」と考えているはずだ。

 たったの300円が、ひょっとすると、自分の将来を劇的に転換してしまうかもしれない……。このとき脳裏をよぎるのは、自分という「たった一人の存在」の「一回性の人生」なのである。

 どんな理由があるにせよ、ギャンブルに参加するとことは、参加者全体を「集団」的に見る限り、不合理なことだと小島氏は言う。なぜなら、ギャンブルの主催者は利益を生み出していて、それは参加者からかすめ取ったものだからだ。

 そのうえで小島氏は、「たった一度の人生を何かに賭けてみることは、否定されるべきことではない」と述べ、次のことを理解した上でギャンブルをすることを勧めている。

「自分の眼前にどんな選択肢があり、それらの選択肢を期待値の意味で比較検討したうえで捨てたことを、そこで確実に失われる利益がいくらであるかきちんと値踏みして捨てることを提案したい。そのうえでなら、どんなことに賭けようが、それはあなたの人生である」