昨年12月19日、日本マクドナルドは2013年12月期の連結経常利益が前期比58%減の100億円になる見通しと発表した。新たに起用されたカナダ出身の新社長サラ・カサノバ氏も、同月25日の新商品ラインナップ発表会では「2013年はお客様に魅力的な商品を提供できなかった」とコメントを寄せている。

 71年、東京・銀座に1号店がオープンしたマクドナルドは日本のグローバル化の象徴といわれ、若者にとってのファッションフードとしての立ち位置を確立してきた。しかし、12年ごろからは客足が激減。日本人のマクドナルド離れに歯止めがかからない。

 ネット上では、提供されている商品の質や販売戦略などブランド側の問題を指摘する声も多いが、この背景の一つにあるのが日本人の「食」に対する価値観の多様化である。低価格の牛丼や大盛りのラーメンといったメガフードは根強い人気を誇るが、一方ここ数年で「スローフード」や「マクロビオティック」といった食べ物を好む層が増えてきているのがその一例だ。

 ライターの速水健朗氏は、自身の著書『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』の中で、今現在の日本人が何を好んで食べているか、「食」で国民をマッピングするという試みを行っている。同書の中で紹介されている「食のマトリックス」では、「生産地と消費地」を横軸に、「健康志向の高低」を縦軸に配置している。どちらも「食」についての選択材料として人が判断基準としている要素である。さらに、横軸の右側をグローバル、左側を地域主義とし、縦軸の上には健康を、下にはジャンクを置いた。

その上で速水氏は、完成したマトリックスの左上の「地産地消」や「有機野菜」を好むような人々を「フード左翼」、マクドナルドのようなファストフードを好む右下の人々を「フード右翼」と名付けた。速水氏によると、このように日本人を「食」で分類することで「日本人の食にまつわる“政治意識”」が浮かび上がってくるのだという。

日本国内でとりわけ顕著なのは、原発事故以降の放射能をめぐる食の安全の問題で、「放射能離婚」などという言葉も生まれた。子どもの食の安全に対して過敏になる母親と、無頓着な父親の対立が、離別にまで至ったケースを指す言葉だ。言ってみれば、一国のエネルギー問題、政府の基準値をめぐる政策への支持不支持の違いといった政治的な問題においての「政治的見解の相違」である。

日本人は「自治」が大の苦手だと言われている。個人は権力にとことん従順で、多くの組織も、最強の運営手法である「ことなかれ主義」をもって運営されている。そんな日本人が、唯一お上に楯突き、大きく声を張り上げるのは、決まって「食」が絡む場合である。

TPP批准やエネルギー問題、環境問題、高齢化社会における社会福祉費用の増大、少子化に寄る年金の破綻問題―― 国家を二分する政治問題が多く存在している昨今、「食」という観点から改めてこれらの難問について考えることはできないだろうか?