「レクサスインターナショナル」ブランドマネジメント部の高田敦史部長
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「レクサスインターナショナル」ブランドマネジメント部の高田敦史部長
IS300h
IS300h

 【集中連載】アベノミクス効果で伸びる高額消費 今注目を集める高級品の新常識に迫る
~Vol.1 レクサス(トヨタ自動車)~

 「アベノミクス」の影響もあり高額商品市場が活況を呈している。しかし、同じく高額商品が飛ぶように売れた80年代のバブル景気とは様子が違い、ただ「高いもの」ではなく、付加価値を兼ね備えたプレミアムな商品が選ばれているという。今、なぜこの商品が売れているのか。本連載では、高額商品市場から見えてくる消費者のインサイドに迫る――。

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 トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」。今年5月に販売が始まった新型「IS」が、420万~595万円という価格帯ながら予想を上回るペースで売れている。特にハイブリッドモデルの「IS300h」の販売は好調で、「IS」販売台数の約7割が「IS300h」に集中しているという。
「レクサスインターナショナル」ブランドマネジメント部の高田敦史部長に話を聞いた。

 「IS300hがヒットした理由は、圧倒的な商品力の勝利だと確信しています。デザインアイコン『スピンドルグリル』をはじめとしたスタイリッシュなデザイン、スポーツセダンに不可欠な高い動力性能と快適性の両立に加え、クラストップレベルの環境性を誇るなど、今まで以上に我々も自信を持ってお勧めできる商品に仕上がっていることが大きい。レクサス全体でみると、今年はグローバルで50万台以上の販売を予想しています。各モデルの販売も好調で、加えて新型ISの販売が大変貢献しているといった状況です」

 国内では新型ISに限らず、昨年10月にモデルチェンジしたLSや1月にマイナーチェンジしたHSの販売が好調だ。特にLS のハイブリッドモデルの販売台数は前年比の実に7倍。まさに売れまくっている。バブルの時も高級車がよく売れたが、あの時代に比べ消費者のマインドに違いはあるのだろうか。

「大きく変化していると思います。私は1961年生まれ、85年入社ですが、我々の世代ですと、高級車はやはり外車の方が上という意見が圧倒的に多かったし、バブルの時はベンツに乗ることがクールで、BMWなどは『六本木のカローラ』なんて言われるくらい人気がありました。ある意味で海外コンプレックスがあったのだと思います。しかし現在、レクサスがターゲットにしている40歳前後の世代の方々は、上の世代に比べて舶来品に対するコンプレックスが少ない。日本のカルチャーやモノに対して、『良いものは良い』とフラットに見られる人が増えています。そういう意味で日本発の高級車が売れる素地があると思います」
 
 さらに高田氏は時代的効果も指摘する。東日本大震災からアベノミクスへとつながる流れの中で、日本人の間に「このまま国を衰退させてはいけない」という、いい意味での愛国心が芽生え、世代に関係なく日本発のブランドに対する訴求力が上がっているという。

 「また、高級車や高級品を買う人のマインドそのものが徐々に変化していますよね。これは日本に限ったことではなく世界的にも言えることだと思います。バブル崩壊後、日本が失われた20年間を過ごしていた中、世界の経済は発展を続け、先進国だけでなく新興国にも新たな富裕層が生まれ、ラグジュアリーブランドの“顧客”は爆発的に増えました。ラグジュアリーブランドの量販化、大衆化が進んだともいえますが、一方で本物のラグジュアリーブランドを求める方の中には、単なるステータスシンボルとしてブランドのタグのみにお金を払うのではなく、ブランドが考える価値観を共有したいと考える人が増えていった。言い換えればラグジュアリーの価値が、他人基準から自分基準にシフトしたんです。もちろん他人基準がゼロになることはありませんが、他人基準一辺倒から徐々にシフトしていき、今ではそのブランドと過ごすことの意義をそれぞれが自分の中に見出すようになっているのだと思います。そのためには、古い概念にとらわれず、新しいお客様と価値を共有できるようなオープンな関係を築いて、“新しいラグジュアリー”を作っていきたいと思っています」

 特に日本の場合は諸外国以上に、バブル期にラグジュアリーブランドが一般的に浸透したこともある。その反動で近年、ステータスシンボルとしての価値が「なくなった」とまでは言わないが、かなり減退したのは事実だ。

 「だからこそ日本のお客様は、より自分の価値目線で商品を選ぶようになっていますよね。その新しい価値観に応じられるように、我々もスピード感を持って変化していかなければいけない。正直、89年にレクサスが米国で産声を上げて24年、ここまでレクサスが変化しているのは初めてのことです。とにかく我々は、自分基準で選ばれるブランドになりたいし、そのためには今の価値観を持つお客様を満足させられるような“新しいラグジュアリー”を作っていきたいと思っています」

 いまやエンブレムや立派な看板だけで高額商品が売れる時代ではなくなった。そのブランドの思いをいかに共有できるか、体感できるか、そして自らの中でその価値を昇華できるか。以前より多くのことを高級ブランドに求める今の消費者は間違いなくどん欲で厳しい。