自分がコピーを取るためにコピー機の前に並んでいたとする。すると、後ろの人が順番を代わってくるように頼んできた。

A「すみません、先にコピーを取らせてください」
B「すみません、コピーを取らなくてはいけないので、先にコピーを取らせてください」

 あなただったら、どちらの言葉で頼まれると順番を譲るだろうか。

 マーケティングの世界でこれを検証したところ、Aは60%くらいの確率で順番を代わり、Bはなんと90%以上の人が順番を譲るという結果になった。だが、よく考えてみるとコピーを取るために並んでいるのだから、Bの「コピーを取らなくてはいけないので」という理由はそこに並んでいる人全員に当てはまるはずだ。

 では、なぜ多くの人はBに順番を譲ったのか? その理由を、日本で唯一の「上司学」コンサルタントの嶋津良智氏は著書『イマドキ部下を育てる技術』でこのように紹介している。「人は理由をつけて頼まれると、その『理由の内容』をあまり深く考えることなく、『理由がある』ことにのみ反応して、譲ってしまう」。つまり、人が行動するためには「とにかく何でもいいから」理由が必要だということだ。

 さらに嶋津氏はこのことを「上司が部下に指示するときも、同じことが言える」と指摘する。上司から仕事を頼まれると「上司の言うことだから」というだけで理由を聞かずに仕事を引き受ける40代に対し、20代は「何のためですか?」と理由を聞く人が多いよう。

 上司からしてみれば「細かいことはいいからさっさとやってほしい」というのが本音だが「『いいからやれ』とただ命じるだけでは部下は動きません」と嶋津氏。「部下が何か付加価値を感じるような理由を毎回提示できれば、あの上司の仕事は何か楽しいな、あとでこんなメリットがあったな、という強い印象が残り、結果的に大きな成果につながるケースが多いのです」。

些細なことかもしれないが、これで部下の行動を促すことができるならば試してみる価値は十分にあるだろう。