近年、定年を迎えつつある団塊世代に心身の不調を訴える人が多いという。その理由が、年金問題ではなく「夫婦間の関係」というから驚きだ。行き場がなく一日中家にいて次第にうつやボケに追い込まれてしまう夫。対する妻は、夫が家にいることで自由を奪われたストレスから心のバランスを崩してしまう……そんなケースが少なくないという。
 
書籍『定年後に夫婦を愉しむ』では、熟年世代の危機を数多く診てきた精神科医の保坂隆氏が「定年は新たな夫婦関係の出発点」とし、数々の夫婦を例に出しながら二人仲良く過ごす秘訣を披露している。
 
その中のひとつに「お互いを名前で呼ぶ」というのがある。参加者のほとんどが定年後夫婦というあるツアーで、誰かが「お父さん」と呼ぶと参加男性がいっせいに振り向いたという話があるほど、お互いをそう呼び合う団塊世代の夫婦は多い。

著者が名前で呼び合うのをすすめるのは、お互いに異性ということを意識するためだ。本書で紹介されているのはこのようなちょっとした方法。小さな改革だが、きっと何かが変わるに違いない。

 江戸時代の歌舞伎役者の五代目市川團十郎の歌にはこんな歌がある。

「たのしみは春の桜に秋の月 夫婦仲良く三度食う飯」

これから夫婦二人で生きていく人生は思っている以上に長い。この歌のように、“二人仲良く食べるご飯が楽しみ”といえる夫婦関係でありたいものだ。