■ファイザー、モデルナの信頼性は高い誤った知識からの「接種忌避」には危機感

 ただ、世界全体に目を向ければ、日本で接種を受けられることがいかに恵まれているか、お分かりいただけると思う。

 世界では今日までに全人口の約25%が少なくとも1回接種を受けているが、低所得国ではわずか1%にとどまる(Our World in Data、7月13日確認)。しかも、高い有効性と安全性が認められているファイザーとモデルナ、必ずそのどちらかのワクチンの接種を受けられる国はかなり限られている。

 英国はモデルナとアストラゼネカの割合が半々で、人口6665万人に対し1億回分ずつ確保されている。米国ではファイザーとモデルナが圧倒的だが、ジョンソンエンドジョンソンの接種も行われている。欧州連合(EU)では契約数ベースでファイザーが24億回分、その下にモデルナ、アストラゼネカ、ジョンソンエンドジョンソンが約4億回分ずつで並んでいる(日本貿易振興機構)。

 アジアやアフリカでは状況はさらに違う。中国のシノバックやシノファーム、ロシアのスプートニクVが、「ワクチン外交」としてばらまかれているためだ。

 ただ、中国製ワクチンの有効性は揺らいでいる。インドネシアでは接種完了者の間で感染が拡大し、シノバックの接種を受けた医療従事者が6月以降、130人以上死亡。ロシアでも、自国ワクチンの安全性が疑問視されて接種率が上がらないため、多くの地域で接種を義務化せざるを得なかった。

 それらに比べれば、ファイザーやモデルナの信頼性は群を抜いている。先の通り重い副反応もごくまれで優劣はつけがたいし、健康な人なら接種を躊躇(ちゅうちょ)する理由にはならない。これは、日頃からさまざまな予防接種を積極的に行っている一臨床医としての実感でもある。

 自分や大切な人の健康と命を守る一人ひとりのアクションが、経済や生活を守ることにもつながる。他方、誤った知識や漠然とした不安からの「接種忌避」の増加には、危機感すら覚える。正しい知識の下、ぜひせっかくのチャンスをふいにせず、きっちり接種を受けていただきたい。

(監修/ナビタスクリニック理事長、医師 久住英二)

◎久住英二(くすみ・えいじ)
ナビタスクリニック理事長、内科医師。専門は血液専門医、旅行医学(Certificate of knowledge, the International Society of Travel Medicine)。1999年新潟大学医学部卒業。2008年JR立川駅の駅ナカにナビタスクリニック立川を開設。働く人が医療を受けやすいよう、駅ナカ立地で夜9時まで診療するクリニックを川崎駅、新宿駅にも展開。渡航医学に関連して、ワクチンや感染症に詳しく、専門的な内容を分かりやすい情報にして発信することが得意。医療に関するメールマガジンMRICを発行する一般社団法人医療ガバナンス学会代表理事。