特に、オッカム教授が繰り返し「ジェンダーの問題は本件ではちょっとおいておきます」「ジェンダーの問題は専門外なのでおいておきます」と記したことについて、この内容でジェンダーを脇におくのは難しいのではないかというツッコミがある。オッカム教授も、これがジェンダー問題をはらんでいると自覚しているからこそ、わざわざ「ジェンダーの問題はおく」と言っているのだろう。

■「君の仕事は気楽なものだから」

 思い出すことが一つある。

 筆者の親戚で、フリーで通訳の仕事をしている女性がいた。高学歴で高い語学力を持ち、子育てが一段落してからそれを生かして通訳の仕事を始めた人だった。まさに、オッカム教授がツイートしたような人物だ。

 ある正月、筆者が親戚同士で集まってくつろいでいる際に、その女性と配偶者との会話が耳に入った。彼女の配偶者がふざけて、「君の仕事は気楽なものだから」というようなことを言ったのだ。組織に雇用されているわけではなく、自分の好きな時間に働ける気楽なものだといったニュアンスだった。彼女は強い抗議はしなかったが、顔をしかめて「もう」と言った。

 その雰囲気から、このようなやりとりは二人の間で何度か交わされているのだろうと感じた。仲の良い夫婦だったが、夫は妻の仕事を「パートタイムで働けるし、自分の仕事より責任の軽いもの」と捉えているようだった。

 このやりとりを忘れられなかったのは(そして、いつもは面白くて好感を持っていたこの親戚男性へのほぼ唯一の残念な思い出として記憶しているのは)、筆者も彼女と同じ性だからかもしれない。


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高学歴女性がキャリア志向を保てないのはなぜか