水道光熱費や通信費、固定資産税の支払いが通帳から引落としになっている場合は、現金を使いません。医療費は、現金で支払うことも多いですが、所得税の確定申告における医療費控除の明細を辿れば金額と内訳を把握することができます。

 場合によっては健康保険の履歴を取り寄せることも可能です。施設に入っている方であれば、利用料の明細を取り寄せれば、生活費の金額と内訳を把握することができます。そうすると、本当に現金で支払い、かつ、内訳がわからなくなる出費は、日常的な食費や旅行費くらいしかありません。

 それを踏まえると、「80代のお婆ちゃんが、年間で、食費や旅行費に現金1000万円を使った」という主張は、無理がありますよね。

■相続争いの大半は「普通の家庭」で起きている

「相続争いは金持ちだけの話」ではありません。

 実は「普通の家庭」が一番危ないのです。

 2018年に起こった相続争いの調停・審判は1万5706件。そのうち、遺産額1000万円以下が33%、5000万円以下が43.3%。つまり、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」 で起きています。

 さらに、2000年から2020年にかけての20年間で、調停に発展した件数は1.5倍以上に増えており、今後もさらに増えていくことが予想されます。

 相続トラブルはなぜ起こるのか? なぜ、普通の家庭で相続争いが起こるのでしょうか?

「財産がたくさんある家庭」が揉めると思われがちですが、それは間違いです。

 揉めるのは 「バランスが取れるだけの金銭がない家庭」 です。

 例えば、同じ5000万円の財産でも、「不動産が2500万円、預金が2500万円」という家庭であれば、一方が不動産を、もう一方は預金を相続すれば問題ありません。

 しかし、「不動産が4500万円、預金が500万円」ならどうでしょうか? 不動産をどちらか一方が相続すれば、大きな不平等が生じます。こういった家庭に相続争いが起こりやすいのです。

 多くの方が「私たちの家庭事情は特殊だから」と考えがちです。しかし、相続にまつわるトラブルには明確なパターンが存在します。パターンが存在するということは、それを未然に防ぐ処方箋も存在します。