●おつりが出ないデジタル食事券

 デジタル食事券は、紙食事券よりも大幅に少ない125万セットしか販売されないため、競争率は紙食事券をはるかに上回りそうだ。

 先述の通り、デジタル食事券はWeb申し込みによる先着順になるため、1人2セット申し込めば62万5000人に到達した時点で終了となる。

 年末年始に、Go To トラベルで東京に旅行する計画のある消費者もいるだろう。そうした人たちが、全国からWebで申し込むかもしれない。「サイトにつながらない」とか「何回もトライしたが買えなかった」という人が続出するのではないだろうか。

 もう一つ、デジタル食事券で消費者が注意しなければならないのは、千葉県などで利用されている電子食事券と違い、1円単位で精算できない、つまり、つり銭は出ないということだ。

 スマホなどの情報端末には1万円分の食事券がダウンロードされるが、紙食事券と同じく1000円分×10枚として使用する。したがって、980円の飲食をした場合、デジタル食事券であっても20円のおつりは出ず、残高から1000円が引かれることになるので注意が必要だ。

 これまで述べてきたように、今後、東京の食事券販売をめぐっては多くの混乱が起き、消費者の不満が高まる可能性は極めて高い。

 その最大の原因は、食事券の販売枚数が圧倒的に少ないことだ。すべての人に公平にという以前に、食事券(紙も電子も)を購入できる消費者が一握りに限られてしまっている。しかも、やはりスマホ弱者、ネット弱者には不公平な制度になってしまったことが大きな問題だ。

 さらに、情報開示のあり方にも問題がある。

 東京の食事券の申込日は11月19日、販売および利用開始日は11月20日だが、購入方法の詳細が、事務局のホームページに掲載されるのは11月中旬だという。電話での問い合わせには答えているが、電話で詳細を聞く人は限られている。申込日の直前に公表するのは混乱を招く一因になるだろう。

 では、いったいどうすれば混乱が少なく、公平な販売ができるのだろうか。

 一つの方法は、石川県方式だ。

 石川県では、不公平をなくし県民に平等に購入機会を与えるということで、全世帯に食事券の購入引換券1冊1万円(額面1万2500円)を郵送したのだ。購入希望者は、引換券を販売窓口に持参すればいいし、購入したくなければ何もしなければよい。

 だが、石川県の全世帯数は約49万だが、東京都は約735万である。食事券購入引換券を郵送するにしても、かなりの経費がかかる。

 もう一つの方法は、Webや往復はがきによる抽選だが、首都圏人口だけでも約3700万人である。仮に半分の人が応募すれば1850万人の抽選になってしまう。また、窓口販売をするにしても、多くの販売所を設置しなければならない。

 私は、10月7日の記事でも述べたが、「飲食店に行けば食事代が半額になる」という英国方式が一番簡単でわかりやすく公平だと思う。

 同記事の最後で「日本では、どんな事業でもほとんどが中間事業者経由で実施される。Go Toイートキャンペーンも、飲食店や食材を納める農業関係者の救済というより、中間事業者を救済する意味合いが強い」とも述べた。国の中途半端な政策に、消費者も事業者も振り回されている現状は早急に改善すべきだろう。

(消費者問題研究所代表 垣田達哉)