●コロナ禍の長期化が悪徳マルチの追い風に

 悪徳マルチをやっていることがバレれば、友人や、周囲の人間からの信頼を失ってしまう。それを理解していながら、木島さんはなぜ勧誘を断り切れなかったのか。

「入会してしまったときの自分を振り返ってみると、コロナのせいで給与が減り、将来への不安を感じていて、先輩の甘い誘いを信じてしまったんです。オンラインのセミナーや勉強会で話した範囲ですが、私と同時期に入会した人は、同じような境遇の人が多かったように思います」

木島さんのようにコロナ不況のあおりを受け、苦しんでいた人たちが、格好の獲物になってしまったというわけだ。

「仕事が減ったり、なくなったりした人のほとんどは、やることがなくて家にいます。こうした人を見つけた瞬間、『リモート飲み会をしよう!』とコンタクトをとり、逃さないように囲い込んでくるのです。このコロナ禍で、多くの人がZoomなどの使い方を心得ましたよね。悪徳マルチの側からすると、直接会わなくても勧誘ができるという、条件が整った状況になっているんだと思います」

 木島さんの同級生や後輩にも、Y先輩からの勧誘を受けた人が数人いたという。そのほぼ全員が、ゴールデンウィークに、「暇ならリモート飲み会をしようよ!」と誘われたそうだ。

「今はSNSで相手の近況もすぐ知ることができるうえ、コンタクトだって簡単に取れる時代です。SNSの投稿からも、『この人は仕事がうまくいっていないみたいだから、勧誘できそう』と、獲物を見極めているんでしょうね」

 ちなみに木島さんは、入会の2週間後には退会の意志を固め、Y先輩に連絡をしたという。

「自分から連絡してくるときはガツガツしているのに、こっちが『やっぱり辞めたいです』と連絡したLINEには、しばらく既読がつきませんでした。それでも今はキレイサッパリ、足を洗うことができました」

 リモートのシステムを駆使したマルチの勧誘は、一度話を聞いたが最後、対面での勧誘以上にうまく包囲されてしまい、断りづらいものだ。次々に便利なツールが登場する一方で、そうしたツールを利用して悪事を働く輩がいることを、頭の片隅に留めておいてほしい。