主催者側の対応をうけ、改めて準決勝出場を決めた大坂なおみ選手(GettyImages)
主催者側の対応をうけ、改めて準決勝出場を決めた大坂なおみ選手(GettyImages)

●大坂なおみ「準決勝棄権」の衝撃

 プロテニスプレイヤーの大坂なおみ選手が、米ニューヨーク州で開催中の「ウエスタン・アンド・サザン・オープン」準決勝を棄権したニュースは、日本のファンにも衝撃をもたらした。

 8月23日にウィスコンシン州ケノーシャで起きた警察官による黒人男性銃撃事件に抗議する意思を示したもので、大坂なおみ選手だけではなく、多くのアスリートが人種的平等を要求し、行動を起こした。米プロバスケットボール(NBA)でも、事件の起きたウィスコンシン州を本拠にするミルウォーキー・バックスがオーランド・マジックとの試合をキャンセルしたことを受けて、NBAと選手会は26日に予定されていたプレーオフ3試合を延期した。メジャーリーグも3試合、メジャーリーグサッカーも6試合のうち5試合がキャンセルになった。

●日本で起こりかけた「棄権の是非を問う」議論

 日本では驚きと戸惑いが先に立ち、「大坂なおみの棄権は是か非か」といった議論が起こりかけていたが、第一報に続いて「大会主催者が日程を1日延期した」とのニュースが伝えられると、ようやく日本でも「米国で今起こっている社会の大きなうねり」が理解されたように思う。

 大坂なおみ選手はツイッターで次のように気持ちを表した。

「私はアスリートである前に一人の黒人の女性です。私のテニスを見てもらうよりも、今は注目しなければいけない大切な問題があります。相次いで起きている警官による黒人の虐殺を見ていて、腹の底から怒りがわきます」

 これに対して、「スポーツに政治を持ち込むな」といった批判が寄せられると、大坂なおみは毅然と「これは人権問題です」と突っぱねた。

 私たちは、これが社会運動である前に、大坂なおみ選手にとって切実な、自分自身の問題であり、思想信条以前の「素直な気持ち」であることに思いを寄せるべきだろう。彼女の身の回りには今も差別の恐れがあり、それが命の危険にさえ及んでいる。7月にはボーイフレンドが抗議デモ中に逮捕される事件もあった。

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「アスリートは黙って競技に専念するべき」という支配からの脱却