●奔放な「自粛度3」飲み歩きをやめられないミュージシャン

 Fさん(37歳男性)はミュージシャンで、Eさんよりもさらに軟派なタイプである。そして「夜の街がテリトリー」だったため、自粛要請が出されたことは死活問題であった。
「仕事がほぼ全部とんで、残ったのは自宅でできる録音や編曲の案件。仕事に集中できたのは良かったが、枯れてしまいそうだった」(Fさん)

 多くのミュージシャン、特に楽器演奏のプロはライブやコンサートが軒並みなくなって一時的に失業状態になっていた。ライブ演奏より「偉い」とされている風潮がある録音の仕事は自粛されたりされなかったりで、だからFさんは録音の仕事があるだけ結構偉いということになる。

 ライブやコンサートでは終演後に打ち上げが行われる場合があり、Fさんの鼻の穴が広がるのはまさしくここだ。客との距離感が近い小さなライブハウスでも、Fさんの鼻の穴は広がり、地方ツアーとなると気持ちはいよいよ開放的になって広がった鼻の穴は裏返るくらいの勢いである。ツアー先では同じく開放的な気分になっている似た感性の同業者と連れ立って女性と遊ぼうとしたり、お店に行ったりする。

「遊びっていうところでいうと、ツアーがなくなったのが痛かった。そのほかにも外出の用がなくなって自宅で細々と飲んでいた」(Fさん)

 自粛で憔悴しきっていたFさんだったが、緊急事態宣言が明けると外での現場仕事もポツポツ増え始め、早速夜の街で遊び始めた。

「といっても以前のようにはいかない。お店の営業も限定的だし、大人数で集まるのはさすがに引かれるので2~6人の小規模飲みを散発的に。とにかく現場の本数が減っているので飲む機会が減った。仲の良い男性としかるべきお店には何度か行った」(Fさん)

 飲み歩きをやめないCさんに比べると、Fさんは飲む場、飲む相手が少ないので飲みそのものの回数は少なそうだが、飲みが概ね女性との密な関係を目的としている点や、言及しているような店に出入りしている点はCさんより(しつこいようだが、感染拡大防止の観点からは)悪質であり、これは自粛度3あたりだろうか。

 夜の街好き中年男性でも自粛期間から現在までの立ち回りはさまざまだ。気にしない人はほとんど気にしようとしないし(本人たちにそのつもりはなさそうで、本人なりの自粛意識があるのは特筆すべきである)、厳格に自粛する人もいる。私見だが、冒頭のBさんのような「時おりよろめきを見せつつ自粛の意識は失わない人」が割合的には多いのではあるまいか。

 東京の日々の新規感染者数を報告するニュースを見ていると、連日「新宿の夜の街関係者は○人」と名指しで報告されていて、痛々しいものがあった。感染リスクが高い場所には違いないが、それをなりわいとしている人はさぞや災難である。

 夜の街は本来楽しい場所であるはずなので、一刻も早くこの厄災が収束し、夜の街関係者もそれを愛好する中年男性も、誰もが大手を振って夜の街を謳歌できる日が再来するのを願ってやまない。