●「支援を止める」という選択肢はない中での対策とは

 ついで、医療をはじめとする多数の専門職がいる特定非営利活動法人「メドゥサン・デュ・モンド ジャポン」で、より専門的な視点からの意見を聞いた。この団体は「世界の医療団」として知られており、「すべての人に医療を」というスローガンを掲げて多様な活動を継続している。ハウジングファースト東京プロジェクトのパートナー「NPO法人TENOHASI」と提携して、路上生活者の夜回りや炊き出しも行っている。

 居住の貧困を解消することに主に取り組む武石晶子さんは、2月末、新型コロナが日本にパニックを引き起こしつつあった時期を振り返って、次のように語る。

「その時期、炊き出しが予定されていたので、厚労省のサイトを参考にして対策しました。炊き出しに来た路上の方々は、『コロナって何?』『感染したら、保険証がないから死ぬだけ』という声もありました」(武石さん)

 新型コロナは指定感染症である。通常の病院で、通常の診察の手続きで治療を受けられるわけではない。治療を受ける際には、必ず保健所を通すことになる。しかし路上生活の人々には、「保健所で門前払いされるのでは」という懸念もあった。

「まず、情報が届いていないんです。そこで、他の支援団体とも話し合い、『最初に情報の貧困を解消しよう』ということで、医療ボランティアに協力いただき、必要な情報をまとめたチラシを作成しました」(武石さん)

 そして武石さんたちは、感染予防や感染の可能性がある場合の対処など必要な情報を簡潔にまとめたチラシを、マスクや消毒剤とともに路上生活の人々に配布した。

 この配布活動は、マスクやアルコール消毒剤の入手難を乗り越えて、現在も続けられている。現在は、ファスナー付きポリ袋に数枚のマスク、ティッシュ、消毒剤または液体石鹸がコンパクトにまとめられた「衛生キット」の形となっている。そのキットの中に、チラシが入っている。

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まずは「情報の貧困」を解決これからは熱中症の対策も