●自殺の「衝動」はすぐに収まる

 相談の目的は「ガス抜き」の意味合いが大きいと述べましたが、もっと具体的にいうと、「自殺衝動」がガス抜きされるのです。自殺行動を分解すると、次のような要素に分かれます。

「自殺念慮」とは、常日頃から「死にたい」と思っている気持ちです。「自殺衝動」とは、「今すぐ死にたい!」「今、死なないと!」という、抑えられない衝動のことです。

「死にたい」と思っている人は、日本人の1.6%もいて、そのほとんどが行動を起こさずに済んでいるのは、「自殺衝動」が低いからです。

 自殺するには、ものすごい勇気がいります。死は恐ろしい。その恐怖というものが、自殺に対する抑止力となっています。

 たとえば、死にたいと思って自殺の準備をしても、「すさまじい恐怖」に襲われ、「やっぱりやめた」と、ギリギリのところで思いとどまる人もたくさんいます。
このギリギリのシチュエーションにおいて、「自殺する人」と「自殺しない人」の違いが、「自殺衝動」の違いとして説明されています。

「いてもたってもいられない死に向かうエネルギー」が「自殺衝動」ですが、その衝動は長くは続きません。ピークの自殺衝動は、5~10分と言われています。誰かと30分も話していると、落ち着いた状態になるのです。

 実際、私も救急外来で、何人もの「今すぐ、死にたい」という自殺衝動の強い患者さんの対応をしたことがありますが、30分ほど話をするだけでも不思議なほどに落ち着いてきます。

 後から、そのときの様子を患者さんに聞くと、「あのときは、冷静さを失っていた」「あのときの私は、どうかしていた」と言います。そして、「あのとき、自殺しなくて本当によかった」とも言います。

 自殺を引き起こしている真犯人は、「自殺念慮」(死にたい気持ち)ではなく、「自殺衝動」(短時間しか存在しない爆発的なエネルギー)です。

 ですから、本当に死にたいと思ったときは、30分だけやりすごせばいいのです。そのためには、「人に相談すること」がものすごく有効です。電話する人が誰もいないという人のためにも、「いのちの電話こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)」が用意されています。

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今すぐにすべきことは何か?