●好かれる人のSNS活用方法

「嫌われるSNS」で第一のパターンが、若者の作法を真似ることで若者に媚びる姿勢だとすれば、第二のパターンはおじさんくささを隠さない姿勢である。このどちらも、若い女の子がついつい冷笑的に見てしまう所以である。

 前者には「おじさんのくせに」という蔑視、後者には「おじさんくさい」という落胆がついて、いずれにしても惹かれるきっかけにはならない。

 要は、「おじさんのくせに」と「おじさんくさい」の隙間を縫った態度こそ必要とされるのだ。それは若者に媚びず、自らの信念に従い、そこにひとしおの「おじさまらしさ」を加えた態度に他ならない。

 おじさんたちがSNSネイティブでないことなど、見るほうだって百も承知。人間関係の当たり前のことさえ気づいていれば、ハッシュタグや添付機能の使い方が間違っている程度で人は嘲笑したりしない。

 要は、相手の立場に立つということ、つまりは自分が何かを言って気持ち良くなりたいとかすっきりしたいとかいうことではなく、見ている人がどう感じるか、何を求めるかを考えることだ。

 良いSNSの使い方をしているおじさまの例は少ないが、私は少なくとも3通りの例があると思っている。

 第一に、写真や読書、陶芸、釣りなど趣味の成果報告に特化した使い方。

 写真が趣味の人が、練習や撮影会などで写した作品をインスタグラムに粛々と載せる。釣りが趣味の人は、釣った魚の写真や釣り場の情報をFacebookやインスタグラムに日記のようにしたためる。陶芸作品をちょっとしたうんちくとともに披露する。読んだ本をレビューしていく。

 どれも誰に対しても不快感がなく、同じ趣味で新しい人と繋がることもあれば、興味を持った人が参加したがることもある。

 そして趣味のあるシニアは、日々特にすることもなく女を追いかけたりテレビを見ていたりする人よりずっと好感度が高い。

 第二に、内輪で楽しむ使い方。

 Facebookなどで、趣味の集まりや飲み会などで撮影した写真を共有する。外部から見たら知らないおじさんおばさんの集まりとはいえ、仲間に恵まれ、社交的な人柄などが透けて見えるので人物に対する安心感が高まる。

 SNSを通してその人の交友関係や日常生活を感じ取る癖のある若い世代に「楽しそうな日々を送っていそうだ」と思われると、孤独な怪しい老人という評価を免れる。

 第三に、食レポや旅レポとしての情報価値を重視する使い方。

 若い女性はレストランやカフェでしきりに写真映えするメニューを撮影しているが、おじさま世代はそんな彼女たちの一歩先を行かなければ、単に若者の真似、あるいは自分の贅沢自慢のように見える。レストラン情報、ゴルフ場情報、旅先のスポットなどを、比較的わかりやすい客観的な指標で紹介すれば、見た人は食べログ的な付加価値を得られる。

 SNSは確かに自由に自分をアピールし、また思いを発信できるツールであるが、対面でのコミュニケーション以上に浮かび上がってくる人物像に冷笑や怒りが込み上がりやすい。

 ちなみに冒頭のCMでは「いいこと言いたくなっちゃう」という緒形拳に対して、奥田瑛二が「やめてよ」と制止する。

 アウトドアでの焚き火前の緒形拳だって制止されるのだ。SNS前のあなたには全世界が「やめてよ」と言っている。

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鈴木涼美

鈴木涼美

1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中にAV女優としてデビューし、キャバクラなどで働きつつ、東京大学大学院修士課程を修了。日本経済新聞社で5年半勤務した後、フリーの文筆家に転身。恋愛コラムやエッセイなど活躍の幅を広げる中、小説第一作の『ギフテッド』、第二作の『グレイスレス』は、芥川賞候補に選出された。著書に、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『非・絶滅男女図鑑 男はホントに話を聞かないし、女も頑固に地図は読まない』など。近著は、源氏物語を題材にした小説『YUKARI』

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