●新型コロナ蔓延を彷彿とさせるシーンも

 先ほどの建設現場の描写は、大友氏が監督を務めたアニメ映画版の中にもあるのだが、ひとつ違うのは、カウントダウンの日数だ。看板には「開催迄あと147日」とあり、こちらにも「中止だ中止」に加えて「紛砕」という落書きがなされている。

 では、現実世界で五輪開催の147日前はいつになるのかというと、2月28日。ダイヤモンド・プリンセス号で「陽性」と確認された人々が700人を突破し、WHOが世界的に大流行する危険度を、最高レベルの「非常に高い」に引き上げた日なのだ。この2月28日を境に、国内外でオリンピックなんてやっている場合じゃないんじゃないのという機運がさらに盛り上がってきているのは、ご存じの通りだ。

 例えば、京都大学では2月29日に学生らがこの看板を再現。アニメと同様に「五輪反対」のビラも多数貼られたこの写真はSNSでも大きな話題となった。そして、この週末にはトイレットペーパーを求めて長蛇の列ができるなど、オイルショック時のようなパニックが起きた。そんな日本社会の混乱ぶりを受けて、3月4日には、BBCやブルームバーグなど海外メディアは、橋本聖子五輪相の談話をチョキッと切り取って、「年内延期の可能性も」と報じ始めているのだ。

「中止だ中止」というムードが高まっているのは、IOCのバッハ会長が「自信を持って東京大会に向けて準備を続けてほしい」という異例の声明を出したことからもうかがえる。これは裏を返せば、かなりの国から「あと4カ月でホントに日本は安全になるの?」という不安の声が聞こえてきているということでもあるからだ。

 そこに加えて、SNSで話題になっているのは、作品内の「WHO」に関する記述だ。「AKIRA」の第3巻の巻末に収められた次巻の予告ページの中で、劇中で発行されていると思しき新聞がデザインに組み込まれており、そこにこんな見出しの記事があるのだ。

「WHO、伝染病対策を非難」

 この背景を説明すると、3巻の最後で「ネオ東京」はAKIRAの超能力によって再び壊滅的な被害を受けてしまうのである。高層ビルなどが瓦礫の山となって、無政府状態で「北斗の拳」のような世界となってしまう。そこで赤痢やペストなどの伝染病が流行してWHOが問題視している――というような記事だということが伺えるのだ。

 3月2日、WHOのテドロス事務局長が、ほとんどの国で新型コロナウィルスの感染を封じ込められているのに対して、韓国、イタリア、イランと並んで日本を「最も懸念する国」だと世界のメディアに説明した。つまり、「非難」こそしていないものの、明らかにウィルスの封じ込めに失敗している日本の「伝染病対策」にかなり不安を抱いていると表明したということで、「AKIRA」の新聞記事とビミョーに重なっている。

 このような数々の予言の的中ぶりから、SNSでは「当たりすぎて怖い」「背筋が冷たくなってきた」という声が上がっているのだ。ただ、夢を壊すようで心苦しいが、この予言のタネ明かしは簡単にできてしまう。

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「AKIRA」に描かれているのは昭和の時代の日本