一体、なぜそんな縛りを受けなければならないのか? 一般企業が新人のリクルートに多額の予算と工夫を凝らし、人材獲得のために企業広報を熱心にする時代に、プロ野球のチームは殿様商売を決め込んでいる。そんな乱暴で、企業本位の業界に未来がないことは、他の業種なら容易に想像できるだろう。言うまでもなく、プロ野球は、自分たちは特別と自認しながら、ガラパゴス化している。

●あの佐々木投手の野球人生も クジ引きで立ち往生させる愚かな制度

 高校3年間、同世代約5万人の中で誰よりも成果を残し、プロ野球界の評価を得た人間ほど「自由な選択」というご褒美が与えられるのでなく、複数球団の競合という究極の不自由を強いられる。

 登板回避であれだけ議論の的になった佐々木がプロ入りする際に、「どの球団の、どんな育成環境、どんな指導者を選ぶのか?」が次の大きな関心事なるのが自然な流れではないか。

 ところが、あれだけ、甲子園を犠牲にしてまで、監督も佐々木の未来のために信念を通し、日本中が議論し、そしてクジ引きで千葉ロッテに決まる。

 球団が決まった瞬間、凍りついた佐々木の表情が波紋を呼んでいる。それはまさに、これまで懸命に追い求め、積み重ねてきた佐々木の野球人生が思考停止し、立ち往生せざるをえなかった、愚かなプロ野球の現実を表しているように思う。

 選手育成をすっかりアマチュア球界に任せきり、自分たちはその上澄みをクジ引きで分け合うだけの非道なプロ野球界が猛省し、目を覚ますよう願ってやまない。

(作家・スポーツライター 小林信也)