●ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教も、ゾロアスター教から学んだ

――1万2000年後、宇宙に終わりが訪れたとき、人類はどうなってしまうのですか?

出口:1万2000年後の未来、世界の終末にアフラ・マズダーが行う最後の審判によって、生者も死者も含めて全人類の善悪が審判・選別され、悪人は地獄に落ち、すべて滅び去ります。そして、善人は永遠の生命を授けられ、天国(楽園)に生きる日がくるのだと、ザラスシュトラは説いたのです。

 ゾロアスター教は、最高神としてアフラ・マズダーが存在しますので、一神教のようにも見えますが、善神と悪神と多彩な神々が存在している点では多神教のようでもあります。このペルシャで生まれた世界最古の宗教に、一番多くを学んだのがセム的一神教でした。

――セム的一神教とは、何ですか?

出口:ノアの3人の息子(セム、ハム、ヤペテ)の中で、セムを祖先とすると伝えられる人々をセム族と呼びます。
セム族は、西南アジア(メソポタミア、パレスティナ、アラビア)の歴史に登場してきた人々ですが、彼らの中から誕生してきた一神教のことです。

 具体的には、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教を指します。

 セム族の一部が信じる唯一神YHWH(ヤハウェ)が人類救済のための預言者として選んだ人物が、アブラハムです。彼はユダヤ人の祖と目され、ユダヤ教やキリスト教そしてイスラーム教の世界でも「信仰の父」として尊敬されています。そのために、セム的一神教は「アブラハムの宗教」とも呼ばれます。
セム的一神教は、天地創造や最後の審判も、天国も、地獄も、洗礼の儀式も、すべてゾロアスター教から学んだのです。

 セム的一神教の3つの宗教を合わせた信者の数は、21世紀の今日、世界で50パーセントを超えています。

 ゾロアスター教は、今日ではインドや中東に少数の信者を抱える小さな規模の宗教になっていますが、世界の宗教に残した影響には多大なものがあるのです。

出口治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。おもな著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。