このケース、あなたがバス会社の職員ならどう対応しますか? 次の対応の中で、クレームのお客さまに「そうなんです」と言わせることのできるのはどれでしょう。

(1)「申し訳ありません。今日は道路状況で至る所で遅延が発生していて、私どもではどうすることもできません。目的地に到着以降のことにつきましては責任を負いかねます」
(2)「おそらく運転手もカプセルホテルだとは知らなかったのだと思います。申し訳ありません、運転手にはきつく言っておきます」
(3)「えっ!?それで、今お子さんたちはどうなさってるんですか?」
 「(1)」のようなお客さまの窮状を汲み取ることのない突き放した言い方は、ますます怒らせるだけです。「そんなことはわかってるよ! 親子連れなのに、運転手の対応が悪いって言ってるのがわからないのかよ!!」と責められそうです。

 「(2)」は一見謝っているようですが、相手からすればただの言い訳です。そうして火を着けてしまうと、「『言っておく』とはなんだ? クビにしろって言ってるんだよ!」と言い返されて、話の焦点が「クビにするかどうか」に移って余計に話がこじれそうです。

 正解は「3」です。「お子さんたちはどうなさってるんですか?」という問いかけは「そうなんです」と答えられる内容になっていませんが、相手が理解してほしいのは運転手のミスではなく、“子どもが大変な目に遭っている”ことです。

 このケースのように、命やケガにかかわる問題については、無事の確認が最優先です。責任については後回しでかまいません。まずはお客さまの身を一番に考えていることを伝えることで、興奮を鎮めるのが先決です。

 実際、お客さまからは「頼み込んで、子どもはホテルのロビーで寝かせてもらってるよ」と返事があり、わずかにトーンダウンしたそうです。

「そうなんです」は、複数回言わせるとより効果的
 こうした情報をもらえればしめたものです。間髪入れずに「よかったです! ホッとしました」と心から喜びを伝えましょう。そのうえでお客さまに「そうだよ(そうなんです)」を言わせる準備に入ります。

 多少、お客さまが冷静さを取り戻しつつあるとはいえ、家族の危機を招いたこのケースでは、またすぐに怒りに火がつくとも限りません。「そうなんです」は1度ではなく、2度、3度言わせたいところです。YES言葉を重ねて口にしてもらうことで、お客さまの脳と心は変化していきます。

「遅延のせいで大変なご苦労をおかけいたしました」
「今日は本当に冷え込んでいますので、お子さまのことが一番心配でしたね」
「話のわかるホテルスタッフでよかったです」

 こうした言葉がけで「そうなんです」を何度か言わせた後に、「運転手もあまり知らない土地で間違ったご案内をしてしまいました。今後、不確定な情報は控えるよう指導を徹底します。ぜひ、またお気づきの点などございましたら、ご一報いただけると幸いです」というように締めることができたら、最高の終わり方だと思います。

 クレームに対する言い訳や正しい説明から始めると、かえって受け入れを拒否されてしまいます。それよりも、まず初期段階でお客さまの「そうなんです」という言葉を引き出すような人としての自然な思いやりが、クレーム解決の武器になります。