●僕らは何者で、これはいかなる本か?

 僕らはジェイクとJZだ。イーロン・マスクのようなロケット開発をしている大富豪でもないし、ティム・フェリスのようなハンサムな教養人でも、シェリル・サンドバーグのような天才的経営者でもない。

 時間管理法の本といえば超人が書くものか、超人について書かれたものと決まっているが、この本には超人はいっさい登場しない。僕らは読者のみなさんと同じ、ストレスにやられたり気が散ったりする、あやまちを犯しがちなふつうの人間だ。

 僕らがちょっと変わった視点をもっているのは、長年テクノロジー業界でGmailやYouTube、グーグル・ハングアウトなどのプロダクトの構築に関わってきたプロダクトデザイナーだからだ。

 僕らはデザイナーとして、抽象的なアイデア(「メールが自動的に振り分けられたらよくないか?」など)を現実世界の解決策(Gmailのプライオリティボックスなど)に変える仕事をしてきた。そのために、テクノロジーが生活のなかでどういう位置づけにあり、生活をどう変えているのかを理解する必要があった。

 この経験をとおして、スマホやラップトップ、テレビなどにあふれている便利なサービスはなぜこんなに魅力的なのか、こうしたテクノロジーに主導権を奪われないようにするにはどうしたらいいかについて、僕らなりの考えをもつようになった。

●時間は「デザイン」できる

 そうして数年前、僕らは時間という目に見えないものを「デザイン」できることに気がついた。でもその気づきをテクノロジーや事業機会として開拓するより先に、僕らの人生のいちばん意味のあるプロジェクトやいちばん大事な人たちとの時間にあてはめることにした。

 毎日、自分にとっていちばん大事なことのために、少しだけ時間をつくろうとした。多忙こそ正しいとみなす世の風潮を見直し、やることリストと予定表をデザインし直した。無意識に受け入れているあらゆる習慣を見直し、テクノロジーを利用する時間と方法をデザインし直した。

 僕らの意志力には限りがあるから、どのデザインも簡単に実行できるものでなくてはならなかった。また約束を全部断るわけにはいかないから、制約条件のなかで動いた。実験と失敗、成功を重ね、やがて答えにたどりついた。

 本書では、僕らが編み出した原則と戦術を紹介しつつ、僕らの犯したヒューマンエラーや、オタクっぽい解決策についても語ろうと思う。

ジェイク・ナップ(Jake Knapp)
著術家、IDEO客員研究員。グーグルで、あらゆる仕事を最速化する仕事術「スプリント(デザインスプリント)」を生み出し、Gmailの改良に生かすなど大きく貢献。その後GV(旧グーグル・ベンチャーズ)のデザインパートナーとして、スプリントをスラックやウーバー、23andMeなどで150回以上にわたり実行し、プロダクト構築を助ける。2017年より現職。現在もレゴ、ニューヨーク・タイムズなどにスプリントをコーチングしている。スプリントは世界中に広まり、国連や大英博物館を含む多くの企業や組織が事業戦略として活用している。著書に世界的ベストセラー『SPRINT 最速仕事術』(ジョン・ゼラツキー、ブレイデン・コウィッツと共著、ダイヤモンド社)がある。

ジョン・ゼラツキー(John Zeratsky)
YouTube、グーグルなどのテクノロジー企業で、デザイナーとして「時間」を再設計するミッションに没頭してきた。GVのデザインパートナーを経て、現在は「ウォール・ストリート・ジャーナル」「タイム」「ハーバード・ビジネス・レビュー」「WIRED」他で執筆。ハーバード大学、IDEOなどの舞台に100回以上にわたって登壇するなど、スピーカーとしても活躍している。

櫻井祐子(さくらい・ゆうこ)
翻訳家。京都大学経済学部経済学科卒、大手都市銀行在籍中にオックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『SPRINT最速仕事術』『第五の権力』『0ベース思考』(以上、ダイヤモンド社)、『NETFLIXの最強人事戦略』(光文社)、『選択の科学』『CRISPR 究極の遺伝子編集技術の発見』(以上、文藝春秋)、『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』(日本経済新聞出版社)などがある。