岡田:「どこまで自分でやるか」は、本当につねに悩んでいるよ。僕の立場はあくまでもサッカークラブの会長であり、チームの監督は別にいる。でも試合を見ていると、「なぜそこで、そんな采配をするんだ」ってモヤモヤしてくることがある。それは仕方ないんだよ、経験値が違うからね。

 あるとき、チームが4連敗して、やむを得ず僕がベンチに入ったことがあったんです。するとチームは途端に4連勝する。あるゲームでは、前半に先制したにもかかわらず、前半終了間際に追いつかれた。監督は「内容はいいからこのままいく」と言っていたけれど、選手たちの表情を見れば、弱気になっているのが僕にはわかった。だから、僕は「攻撃的な選手を2人入れて、『今日は勝ちに行くぞ!』という意思を示したほうがいい」と指示をしたんです。結果的にその試合も勝利しました。

佐宗:おお、すごい……。たしかにそれを聞くと、岡田さんが監督をやったほうがいいように思えてしまいますね。

岡田:生意気だけど、僕自身のなかにも「俺がやれば…」という気持ちがどこかにある。でも、きっとそれがいけないんですよ。あるとき、ホリエモン(堀江貴文氏)と話していたとき、「まあ、岡田さんが監督をやれば、チームは勝つんでしょうね。でも、岡田さんは監督をやるわけにはいかないんでしょ?」と言われた。

 そのとおりだ。できないんだよ、僕は。オーナーであり、監督ではない。それで吹っ切れた。選手たちが、監督じゃなくてオーナーの顔色を伺うようなチーム、いくつもあるでしょう? オーナーが口を出すチームはだめなんだ。

 僕が原因だったんです。それにやっと気づけた。だから「うちはこれから勝てる!」って思った。

■ビジョンが心を動かし、人を動かす

佐宗:去年、FC今治はJリーグへの昇格を惜しくもぎりぎりのところで逃しましたね。それにもかかわらず、FC今治を応援するスポンサーは増えたそうですね。夢からはじめて、人が動いて、結果的にお金も入ってくる、ということが起きているのはなぜだと思いますか?

岡田:ようやく、ですよ。ようやく、ここまできた。

 僕がはじめて今治に行ったときは、みな斜に構えて、まったく受け入れてもらえなかった。何をやってもだめ。車にポスターを貼って走ったり、駅でチラシを配ったり。今治のみなさんも「東京から有名人がやってきたけど、どうせ、ちょちょっとやって帰るだろう」と思っていたんだと思います。

 でも、4年目にしてようやく動き始めた。

「今治にスタジアムなんてできるわけがない」と言われていたけれど、本当にスタジアムができた。「観客5000人なんて入るわけがないだろう」と言われていたけれど、5200人が入って満杯になった。

 社員から聞いた話だけど、オープニングのときは、ゴール裏で泣いている中年女性がいたそうです。社員が声をかけたら、「3年半前に岡田さんが来たときは、誰も岡田さんの言うことなんて信じてなかった。でも、それが本当に実現した。今治でこんなことができるなんてうれしくて……」とおっしゃていたそうです。

佐宗:岡田さんの「妄想」が具現化し、それが今治の人の心を動かしたわけですね。

岡田:そうやってようやく動き出して、昨年、最終戦でJ昇格を逃したんですよ。当初は社長が挨拶することになっていたんですが、サポーターから罵声が飛ぶのは必至。だから、代わりに僕がグランドに立ち、みなさんに向かって申し訳ないと頭を下げた。僕は罵声を浴びるのには慣れているからね。

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