両脳思考という言葉が指し示すとおり、ここにはいわゆる「左脳/右脳」「論理/直感」「言語/イメージ」といった二項対立を乗り越え、両者を統合しながら新しいものをつくるという態度がある。

 つまり、デザイン思考というのは、個別具体的な直感・イメージだけを重視するものではない。非線形的な思考モードへの再評価からスタートしながらも、単なる思いつき・妄想で満足したりはしないのである。

 むしろ、直感と論理とのあいだを自在に行き来する「往復運動」こそが、デザイン思考の本質だと言えるだろう。スタンフォード大学で提唱された「両脳思考」でも、思考のLモード(言語脳)とRモード(イメージ脳)を自覚的に切り替えながら、発想を磨き上げていく手続きが推奨されている。

 したがって、まず手を動かしながらプロトタイプをつくったら、一定の「言葉」に落とし込む作業も忘れてはならない。わかりやすいのは、その具体物に「名前」をつけることだろう。もちろん、いくつかキーワードを列挙するような作業でもいい。

 この際にヒントになるのが、VAKモデルという考え方だ。

 これはVisual(視覚の)、Auditory(聴覚の)、Kinesthetic(体感覚の)という単語のイニシャルからとったもので、NLP(神経言語プログラミング)心理学の世界などでしばしば言及される概念である。人は五感を通じて知覚を行っているが、とくにどの感覚を優先的に使っているかは個人によって異なり、Visual型/Auditory型/Kinesthetic型という3つの類型があるとされている。

 たとえば、感覚の代表システムが「視覚優位」である人は、目で見る学習をすると効率が高かったり、「話のポイントが見えてきました」「そこに焦点を絞りましょう」といった視覚言語を多用したりする傾向がある。

 他方、「体感覚優位」の人であれば、実際に手を動かしながら学ぶことに向いており、会話などでも「この広告はツルッとして引っかかりがないですね」「その話はズバッと刺さりました!」など体感覚に関わる言葉がよく登場する。

 これと同様、プロトタイピングによって具体物をアウトプットしたら、それをVAKの観点からそれを言語化してみるといい。そうすると、自分がとくにどのモードで世界を知覚しているかが見えてくるはずだ。

 僕はこのモデルを研究するなかで、とくに新しいものを生むためには、「何か世の中の“あたりまえ”に違和感を感じる」とか、「なんとなく気になる」いう直感的な体感覚(Kinestheticモード)からはじめ、自分なりのアイデアを具体的なイメージとして描く視覚(Visualモード)に移り、最後にそれに呼び名をつける(Auditoryモード)という順序で考えることが自然ではないか、という仮説を持っている。

次のページ