●「質問」で主導権を握る

 では、フェイス・トゥ・フェイスでどのようなコミュニケーションを取るべきか?

 すでに述べたように、交渉では「話す」より「聞く」ことが重要である。そのためには、できるだけ「質問」を主軸にコミュニケーションを進めるべきだ。「質問」をすれば、相手はそれに答えざるを得ない。もしも相手が答えるのを断ったり、ごまかしたりした場合には、それが相手の「弱点」なのだとわかる。

 また、「質問」によってコミュニケーションの主導権を握りやすいというメリットもある。より多くを語るのは相手だが、「質問」によって話題を変えることができるからだ。その意味でも、「質問」は交渉において重要な武器だと言えるだろう。

 そして、相手の真意を確認するのが「質問」の基本だ。

 相手が何らかの主張をしたときに、それを表面的に受け止めるのではなく、「なぜ、相手はそれを主張するのか?」を明らかにするのだ。それが把握できれば、こちらもより適切な対応策を用意することができるからだ。

 ただし、「なぜ」という言葉は、ときに詰問と受け取られかねないから注意が必要だ。そのためにも、対決姿勢で向き合うのではなく、あくまでも、「私はあなたとともに問題解決がしたい」というスタンスを明示すべきだ。そのうえで、「問題解決をするために、あなたが、なぜ、その主張をするのかを知りたいのだ」という気持ちでコミュニケーションを取ることを心がけるのだ。

 たとえば、「私は“NO”と言っているわけではない。ただ、なぜあなたがそう主張しているのかを知りたいんだ。詳しく説明してほしい」とか「その根拠をもう少し教えてくれれば、あなたの要求にもう少し応えることができるかもしれない」などと質問すれば、相手も本音を話しやすくなるだろう。

●「同じ量を話している」と錯覚させる

 もう一点、注意すべきことがある。
 あまりに「質問」してばかりいると、相手も「情報を与えすぎているかもしれない」と警戒心を抱くおそれがある。そのような警戒心をもたれないようにするために、私が意識しているのは「同じ量を話している」と錯覚させることだ。

 つまり、「質問」を主軸にしながらも、ときどき、こちらの情報も明かすのだ。もちろん、自分にとって重要なことは伏せたほうがいい。たとえ「小さな情報」であっても、こちらも相手と「同じ量」の話をしていると思わせることができれば、警戒心を和らげることはできる。

 たとえば、明らかに「金額」が重要な争点となる交渉において、「この交渉はすごく時間がかかりそうだと考えている。3ヵ月以内に解決すればいいと考えているけど……どうだろう?」などと、自分の考えを“チラ見せ”するイメージだ。

 この程度の情報でも、相手は「胸のうちを明かしてくれた」と感じて、さらに情報を与えてくれるかもしれない。「小さな情報」を出すだけで、「大きな情報」を得ることもできる。「エビで鯛を釣る」というわけだ。

次のページ
ジョン・レノンはなぜ『ロックンロール』を作ったか?