●最も譲れないことは何か?


――[4]流れに対抗する根本主義(ファンダメンタリズム)

[3]は空気=前提をできる限り排除した形で考えることでした。

 一方で、排除できない前提に対して、打破する力を強化することで突破することも、山本氏は提示しています。

『「空気」の研究』第3章では、「根本主義(ファンダメンタリズム)」というキーワードが頻繁に出てきます。詳しくは次項で解説しますが、これは共同体、集団、民族の最も譲れない原点を基に、現状の拘束に対抗することを意味します。

 15世紀に行われた宗教改革で有名なマルティン・ルター。世俗の権力すら握っていた当時の教皇の権威に、彼は「聖書」を譲れない原点として抵抗しています。

 根本主義(ファンダメンタリズム)の利用は、集団の「最も譲れない原点」を基に、ある種の前提や既存の流れを打破する行動なのです。

 この根本主義は、個人の人生でも意味を持つ場合があります。

 日常では人生を支える多くのものが「どれも大切」に思えます。しかし、一大事が起きたとき、あなたは何を最も重要なものと考えるか。

 仕事が重要でも、健康を失えば二度と職場復帰はできません。何が自分たちにとって一番大切なことか。最も譲ることができない根本は一体何か。

 この問いと、それに続く思考と決断は、人生における些末なことを発見して、さまざまな拘束から私たちを解放してくれる効果を発揮するのです。

(この原稿は書籍『「超」入門 空気の研究』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)

■著者紹介
鈴木博毅(すずき・ひろき)/ビジネス戦略コンサルタント。MPS Consulting代表。
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部、京都大学経営管理大学院(修士)卒業。大学卒業後、貿易商社にてカナダ・オーストラリアの資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、負ける組織と勝てる組織の違いを追究しながら、失敗の構造から新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。わかりやすく解説する講演、研修は好評を博しており、顧問先にはオリコン顧客満足度ランキングで1位を獲得した企業や、特定業界での国内シェアNo.1企業など多数。主な著書に『「超」入門 失敗の本質』『「超」入門 学問のすすめ』『戦略の教室』『戦略は歴史から学べ』『実践版 孫子の兵法』『実践版 三国志』『最強のリーダー育成書 君主論』『3000年の英知に学ぶリーダーの教科書』などがある。