●売れるか、売れないかは「商品の差」ではない

 ご紹介した5つの事例は、どれも、「普通とはちょっと違うこと」だったと思います。でも、やろうと思えば、誰でもできることばかりです。

 ビールの底に松の葉を敷くことも、靴に毛布をかけることも、手提げ袋に緩衝材を巻いたり付せんを貼ることも、別に難しいことではありません。お礼状に写真を添えることも、体重計にカバーをかけることにしても、そうです。

 そんな、ある意味すごく簡単なことが、私の心を動かして、「あそこは、ほかと違う」「またあのお店に行こう」という気持ちにさせたのです。

 モノが売れない時代になった、と言われています。でも、いつも行列ができているお店があります。成長し続けている会社は、たくさんあります。値段やサービスの内容が極端に違うケースはともかく、ほとんどのお店や商品には、それほど大きな違いはありません。なのに、売れる人と売れない人、繁盛しているお店とそうでないお店がある。

 これって、不思議だと思いせんか?

●「自分が買う」と「誰かに紹介する」の間にあるもの

 それが顕著なのが、私たち営業の仕事です。同じ会社の営業ならば基本的に、同じ商品を、同じ環境、同じ価格で売っています。それでも、成績に大きな差が生まれるのです。

 いったい、なぜなのでしょうか。私がその理由に気づいたのは、前職のリクルートという会社から、現在のプルデンシャル生命に転職して、しばらくしてからでした。同じ営業の仕事だと思っていたものに、いくつかの「違い」があったのです。

 一番大きな違いは、仕事の「ゴール」でした。リクルート時代のゴールは、「ご契約」をいただくことだったように思います。しかし、プルデンシャル生命の仕事のゴールは「ご紹介」をいただくことです。ご加入いただいたお客さまに、保険の話ができる方をご紹介いただいて、またその人にご紹介していただき、お客さまの輪を広げていく。そんな仕事です。

 現在、私はご紹介だけで、約2600人のお客さまを担当させていただくに至っています。

「契約」であれば、「損得」でたどり着けることもあります。「こっちのほうが安いから」「今、買わないと損だから」などといった理由で。でも「紹介」となると、そうはいきません。「損得」で商品は買ってはくれても、人を紹介するとなると、「ほかの要素」が必要となってきます。

 では、何が必要なのでしょうか。

 それは「お客さまの心を動かすこと」です。小さくてもいいから、お客さまに「感動」を提供することです。なぜなら、人は、心を動かされたときに、それを別の誰かに伝えたくなるものだからです。

●「小さな感動」が人を集める

 ちょっと、ご自身の経験を振り返ってみてください。自分が行ったレストランを、つい人に話したくなるとき。観た映画を、誰かに教えたくなるとき。誰かから話を聞いて、すぐ別の人に話したくなるとき。人に何かを紹介したくなるのは、普段では感じられない「ちょっとした感動」があったときではないでしょうか?

 冒頭で、私が取り上げた5つの事例も同じです。私自身が心を動かされたから、みなさんに「紹介」したのです。もし岡山の料亭でビールの受け皿に松の葉が入っていなかったら、「おいしかった」と思っただけで、人に紹介しようとは思わなかったかもしれません。治療院は、同じぎっくり腰の人には勧めたかもしれませんが、本に書くまではしなかったでしょう。靴を温めるという工夫や不思議な靴べらに感激したから、ご紹介したくなったのです。

 人は、心を動かされると、人に紹介したり、リピートしたくなるものです。フェイスブックやツイッターなどのSNSに投稿して、みんなに何かを伝えたくなったり、誰かの投稿に「いいね!」を押したくなるのも、あなたの心がちょっとでも動いたときだと思います。その結果、ある商品が爆発的に売れたり、あるお店に行列ができたりすることは、みなさんもよくご存じでしょう。

 すっかり定着した「インスタ映え」という言葉も、「ちょっと心が動かされた写真」と言い換えることができるのではないでしょうか。そして同じように心を動かされた人たちが、その情報を拡散し、どんどん世の中に広まり、多くの人たちがつながっていくのです。つまり、人が人に何かを伝えたくなる原動力は、感情的なものによるのです。

 では、どうしたら、自分の仕事でお客さまの心を動かすことができるのでしょう?

 変わったことをすればいいのでしょうか。ほかよりも目立てばいいのでしょうか。

 いいえ、違います。それだけでは、人は感動してくれません。いっときは面白がって話題にしてくれても、「また行きたい!」とか「誰かに紹介したい!」とまでは思ってもらえません。お客さまの心を動かすものには、ちゃんと「法則」があるのです。その法則を理解すれば、実行することも、意外と難しいことではないのです。

 拙著『だから、また行きたくなる。』の第2章からは、私が営業という仕事で意識してきたことと、私自身が心を動かされた多くの事例をご紹介しながら、人の心を少しだけ動かすための「2つの考え方」についてお伝えしていきます。

 ひとつは、「レベル10」「レベル11」という考え方。
もうひとつは「先味・中味・後味」という考え方です。

 どんな仕事であっても、この2つの掛け合わせを実践することで、お客さまに選ばれる存在になることができます。

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『だから、また行きたくなる。』著者からのメッセージ