サガンの本拠地、ベストアメニティスタジアムはJR鳥栖駅から徒歩で約5分と間近にあり、博多駅から快速に乗れば30分ほどで到着する。群を抜く利便性の良さは午後8時のキックオフを可能にし、そこへ気温の冷え込みに備えて来場者全員に特製の防寒用マントを配布し、JR九州と協議して試合終了後の電車も増発させるサガンの集客努力も加わる。

 さらには元東方神起のメンバーで、日本でも根強い人気を持つ韓流スター、ジェジュンさんによるミニライブをハーフタイムに開催。数多くの女性ファンの足をスタジアムへ運ばせた結果、スタンドは1万9633人の大観衆で埋まった。もっとも、ジェジュンさんに関しては電話一本で呼び寄せたと、今年度からJリーグの理事(非常勤)も務める竹原社長は屈託なく笑う。

「そういうネットワークは、けっこう強いんですよ。なので、ミニライブの開催に関しては苦労しませんでした。理事へのお声がけを(村井チェアマンから)いただいた時は、まだ早いかなと思いましたけど、やっぱりチャレンジしたいので。そのためにはいろいろな情報を知りたいと思い、中央に出て行こうと思った次第です」

 そして今、壮大な夢を託し、熱意をもって射止めたトーレスの存在を、地方の田舎クラブによるチャレンジの象徴として竹原社長は位置づける。日本円で5億とも7億とも伝えられる年俸はスポンサーに頼らず、今後の営業活動の中で集中して工面していく方針も固めている。

「クラブとしてのフィロソフィーを応援していただく、ということにもっと集中していくためにも、トーレスのような選手に来てもらえるという夢を、田舎のクラブでも見られるのは非常に大事なこと。大都市のビッグクラブに試合でも勝ちたいけど、クラブとしても勝ちたいというチャレンジの中でのステップなんです。僕は悪い経営者ですよ。絶対に満足しないから。選手に対しても監督に対しても、もっとできるんじゃないの、と思っちゃうので。その中で近づきすぎてもいけないし、離れすぎてもいけない距離感を、しっかりと保っていきたい」

 ホームにベガルタ仙台を迎えた一戦から、長く象徴としてきた「9番」を背負うトーレスの勇姿とともに、サガンの新たなチャレンジが始まる。

(藤江直人:ノンフィクション・ライター)