●「クラブとして彼に恋をした」と名言を残した竹原社長の交渉力

 サガンの参戦がメディアで報じられたのが5月上旬。争奪戦の行方が世界中の注目を集めていた5月30日には、予想外の事態が発生する。トーレスのサガン移籍決定を見越して事前に用意されていた記事を、Jリーグの公式サイトが誤って掲載してしまったからだ。

 すぐに削除されたものの、情報がすぐに世界中へ伝播する今現在において、各方面へ与えた影響は決して小さくなかったはずだ。このことが、その後の破談報道につながったと容易に察することができるが、竹原社長は否定も肯定でもせず、トーレス側からの返答を待ち続けた。

「情報が錯綜する中で僕らも振られるところもありましたけど、彼や代理人とは一定の距離感でずっと話ができていましたし、そういう関係がないがしろにされるような状況ではなかった。日付を切らなきゃいけない、という焦りはありましたけど、それでも安心して話をすることができたと思う。ウチとしては、いわゆるマネーゲーム的な話をしなかったことが、かえってよかったのかもしれない。フットボールに対する考え方や鳥栖の未来、これからの彼の人生だけでなく、日本という国が彼の家族にとっても安全で、もっともっとサッカーを強くしていきたいと望んでいることを伝えたかったので」

 交渉の過程で、トーレスの誠実な人柄に魅せられたのか。竹原社長は「クラブとして彼に恋をしました」という名言も残した。竹原社長を介して、トーレス自身も日本へ好印象を抱いたのだろう。入団会見では笑顔でこう語っている。

「私に関していろいろなニュースが報じられていることは知っていたが、竹原社長は常に明快な形で、素晴らしい交渉をしてくれた。私に対する信頼感がすごく感じられたし、私や家族にとって日本は素晴らしい次の目的地であり、新しい文化、新しい言語、新しい国について学ぶことができ、幸福な生活を送れるだろうと考えるようになった」

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 ここまでの過程を振り返っても、一連の交渉で竹原社長がキーマンを担ってきたことが分かる。兵庫県伊丹市で生まれ育ち、大阪・北陽高校ではサッカー部でインターハイを制した経験を持つ竹原社長は現在57歳。俳優の吉田鋼太郎をほうふつとさせるワイルドなルックスの持ち主は、実は意外な経歴を持つ。

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Jリーグでは珍しい「高卒の社長」