●スティーブ・バルマーの辞任でスマホ戦略に幕引き

 マイクロソフトのスマホOS戦略は、CEOだったスティーブ・バルマーの実質的な引責辞任という形で幕を閉じる。

 スティーブの辞任については、ちょっとした裏話がある。ビルは、その前からスティーブを辞めさせる時期を模索し続けていたのではないか。その絶好の機会となったのが、スマホOSの覇権をめぐる中でスティーブが手掛けた、ノキアの買収と失敗だった。

 スティーブは、ビルの後を受け2000年にCEOに就任した。当時は、Windowsが覇権をさらに拡大させようとしていたと同時に、静かに“ポストWindows”とでも言うべき新たなITの主役が模索されていた時代でもあった。

 スティーブは、Windowsの覇権拡大については、辣腕営業マンとしての力量をいかんなく発揮していた。しかし後者の、次なるIT世界の主役の模索と開拓については、まったくと言っていいほど成果を出せていなかった。その象徴が、ゲーム用機器「Xbox」への多額投資の決断と挫折だろう。ただスティーブは、自分の失敗でも人のせいにするところがあり、言い方は妙だがなかなか汚点を残さなかった。

 ノキアの買収が持ち上がったときだ。私は「そもそも、失敗するつもりで買ったら犯罪だけど、ノキアを買って失敗してもマイクロソフトが揺らぐことはない。ならば買ったらいいんじゃない」と思った。

 これはあくまでも私の推測だが、このときにビルには、「ノキアを買収してもスマホ分野で勝ち名乗りを上げるのは難しい。だが、ノキア買収に失敗すれば、その責任を取らせる形でスティーブを平和に辞めさせることができる」というシナリがすでにあったのではないだろうか。つまり、ノキアに投じた金は、スティーブ・バルマーを辞めさせるための“工作資金”的な色合いを備えていたと思えて仕方がないのだ。

 寄り道になるが、一つ思い出話を書けば、私はビルがスティーブを雇う現場に立ち会っていた。

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