現在、ヤマト社内では、「残業は絶対するな」「昼休憩は何としても取れ」と働き方改革の大号令が掛けられている。本社はブラック企業のイメージを払拭したいから、コンプライアンス順守が最優先である。しかし、現場ではスタッフの総労働時間が減らされたほどには物量が減っていない。

 だから、本社指令と物量を運び切る目標の板挟みになったエリア支店長は、「各現場スタッフの生産性を上げることで荷物を運び切れ」と指示を出した。メールの文章は支離滅裂で正気を失っているようにも見える。それだけ、上からのプレッシャーが強いのだろう。

 迷惑なのは現場だ。荷物を運ぶノルマに労働時間を減らすノルマが加わり、労働環境が悪化している。まさしくノルマ地獄。働き方改革が完全に裏目に出ているのだ。

 従業員20万人を抱える巨艦ヤマトは、地域経営を進めてきた一方で、上意下達の企業風土が根付いている。「上の顔色しか見ていないから、長年、現場の窮状がないがしろにされてきた」(ドライバー)と打ち明ける。

 ヤマトは昨年6万人いるドライバーの多くが、長時間労働を強いられていたことが判明。いわゆる働き方改革3点セット(総量規制と値上げ、人員増)を打ち出した。

 実に27年ぶりに基本運賃を改定し、大口法人1000社にも値上げ交渉を行った。その結果、宅急便の平均単価を559円から597円に引き上げることに成功。最大顧客であるアマゾンとの交渉は、従来運賃から4割増の引き上げで決着したもようだ。

 総量規制については、当初目標の8000万個減は達成できず、3000万個減にとどまった。

 もっとも、仮に達成できたところで、年間17億個のうちの数パーセント減にしかならず、現場要員の負担軽減につながったかどうかは怪しいところだ。

 人員は昨年に比べ1万人増えたが、「楽になった実感はない」(現場スタッフ)という。

 唯一、改善されたことがあるとすれば、「早く帰れるようになった」(ドライバー)ことだ。日時指定の最終便枠が1時間早くなったことで、「夜の配達分を委託業者に任せることが増えた」のだという。

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現場軽視の施策で画餅に帰する100周年計画