実際に2018年の選抜大会について調べてみると、ベンチ入りした全648人のうち229人が県外の中学出身の選手であった。実に3人に1人が野球留学生という計算になる。ちなみに最も多かったのは松山聖陵(愛媛)の16人。次いで多いのが明秀日立(茨城)と日本航空石川(石川)の15人。優勝候補の大阪桐蔭(大阪)は日大三(東京)、慶応(神奈川)、明徳義塾(高知)と並んで4位タイの14人である。逆に全員が県内出身の選手だったのは花巻東(岩手)、富山商(富山)、乙訓(京都)、富島(宮崎)、東筑(福岡)、由利工(秋田・21世紀枠)、膳所(滋賀・21世紀枠)の7校であった。

●野球留学生への反対派の意見は主に3つ

 しかし改めて考えてみるとこの野球留学生は一体どこに問題があるのだろうか。反対派の意見の代表例としては以下の三つが挙げられる。

(1)その地区の代表校なのに地元出身の選手がいないことが良くない
(2)私立の特定校にばかり有望選手が集まることが不公平
(3)選手の進路に周辺の大人が関わりすぎる

(1)については地元を愛するが故の意見ではあるが、高校の3年間だけでもその地域と繋がりができているという考え方はできないものだろうか。人口が減少し、地方ではIターンで労働人口を増やそうという取り組みが活発になっている中で、野球留学生だけを否定することは逆にその地域にとってマイナスと言えるだろう。

(2)の意見も根強いが、私立の学校にとっては生徒に入学してもらわなければ経営が成り立たないこともまた事実である。甲子園大会は全試合をNHKが中継していることからも分かるように、高校野球が持っている影響力は他の高校スポーツとは比べものにならないほど大きい。教育の一環である高校野球を商業的に利用するのはけしからんという意見も分からなくはないが、学校経営の一手段として使われることになったのは、むしろ喜ばしいこととも考えられるだろう。

 また、私立校でも伝統校であれば非難の声は小さい傾向がある。前述した通り、今年の選抜にも出場する慶応の選手の多くは野球留学生であり、昨年の選抜に出場した時の早稲田実(東京)もそこまで多くはないものの7人の県外出身者がベンチ入りしていた。早稲田実出身の斎藤佑樹、慶応出身の白村明弘(共に日本ハム)も県外の中学出身である。しかし不思議なことに早慶のような伝統校に対してはオールドファンも高野連も批判の声が小さくなる傾向が強い。これは極めて不健全な状態と言えるだろう。

 少し話が逸れたが、そう考えると大きな問題は(3)だけではないだろうか。大学野球の話ではあるが、あるプロ野球選手を取材した時になぜその大学を選んだのか尋ねたところ、「監督にある日突然その大学に行くぞと言われて練習に参加して決まりました」と話していた。ちなみにその選手の進学先は東京のいわゆる名門と言われる大学である。

 高校野球でも同様のことが行われている例は少なくない。指導者や周辺の大人は良かれと思ってその選手の進路の世話をしているのかもしれないが、本人の意思がないがしろにされていることは確かに問題である。また有望な選手の進路に対してブローカーのような人間が暗躍し、金銭的な見返りを受け取る温床になることを防ぎたいということもあるだろう。

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本人が望んだ野球留学、否定しがちな外野の大人