●45分で一生の財産を与えられた

 盛和塾には親しいメンバーが何人かいる。彼らは、この件で私が盛和塾を破門になるのではないかと心配してくれていた。盛和塾の伝道師を自ら任ずるような存在だった私が、不祥事を起こして盛和塾の信用を傷つけてしまったのだから当然だ。

 しかし破門にはならなかった。不祥事を起こしてしまったからこそ利他に立ち返らなければならない。稲盛塾長は、そう教えてくれたのだ。

 だから正直に言えば、稲盛塾長に叱られた45分間は、私の宝であり自慢でもある。約1万3000人の塾生がいるとはいえ、稲盛塾長から直接、45分間も叱られ、ある意味で稲盛塾長を“独り占め”して教えられた塾生などいない。

 もちろん、そんな子どもじみた自慢をしたいのではない。叱られたことが私の財産として心に残り、それが経営の折々に鮮やかによみがえってきて直接叱られているような気になり、「いかん、いかん」と気を引き締めるのだ。こんな財産を与えてもらったことが自慢なのである。

 俺の株式会社でも稲盛経営哲学は変わることがない。例えば経営理念は「飲食事業を通じての地域社会への貢献/全従業員の物心両面の幸福の追求」を掲げている。

 これと京セラの経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」を読み比べてもらえれば、私が「俺の」で稲盛哲学の実践にどれほど取り組もうとしているかを分かっていただけるだろう。

「謙虚にして驕らず」「世のため、人のために尽くす」といった稲盛塾長の教えは、私の経営の、そして人生の指針でもある。

 “文春砲”によってブックオフを離れ、内定していた日本フランチャイズチェーン協会の次期会長職も辞退せざるを得なくなったが、今ではそんなことはもうどうでもよいと思っている。

 裏切り者に対する復讐の思いは、そのエネルギーを次の挑戦に振り向け、「俺の」に結実している。かつてのフランチャイジーの人たちへの恩返しも始まっている。

(俺の株式会社社長 坂本 孝)