●恐怖を感じたほどの怒り
稲盛塾長の第一声は、「あんたは盛和塾でなにを勉強してきたのか!」だった。その語気の鋭さ、激しさ、重さに、アドバイスをいただけると悠長に構えていたのとは真逆のことが起ころうとしているのに気づかされた。
質問に私は、「え~っと」と口に出して思いつくだけの返答をする。そうすると稲盛塾長から、「言い訳を言うな」と一喝される。そして私の返答にいらいらするのか、拳で応接テーブルをトントンと叩き出した。
私は一瞬、思った。
「京セラから給料をもらっているわけでもないのに、どうしてこんなに怒られなければいけないのだろうか。私は学びの会の一会員でしかないじゃないか」
今から振り返れば、あんな場で、そのような自己保身のようなことを考える男だから驕りや不徳を晴らすことができないのだ。
稲盛塾長は、「君は復讐しようとしているな」とも言った。図星である。実は私はそう思っていた。内部告発に加担したメンバーの顔を思い浮かべ、「あいつらだけは許さない。いつか」と。
しかし、そのときの稲盛塾長とのやり取りのなかで鮮明に覚えているのは、そのことぐらいだ。後のことは何も覚えていない。
とにかく、怖かった。人から叱られて、あれほどの恐怖を感じたことは人生に一度もなかった。街金からの借金を返せず、逃げ回っているときでさえ、こんな恐ろしさを感じたことはなかった。
もっと言えば身の危険を感じるほどの気迫ある怒りであり、私はそれを受け止めることができなかった。よく「人に叱られて震え上がる」と言うが、あのときの私は、まさにそれだった。
だから何を叱られているかもまったく憶えていないのだ。ひたすら怒りの気迫に耐えるだけの時間だった。
秘書さんが何度も次の予定を伝えに入ってきたが、稲盛塾長の怒りは収まらず、結局、10分間の面会予定は45分にもなっていた。
だが帰り際、稲盛塾長はエレベーターまで送ってくれた。そのとき、あのでっかい手を出してくれた。稲盛塾長は身長が180cmぐらいあり、私も178cmぐらいだから、握手した男同士の手はでかい。稲盛塾長は、その手をじっと見て、「挑戦しろ」と言ってくれた。「俺が付いているから大丈夫だ。なんでも相談に来い。いつでも電話をかけてこい」。