現場の医師たちによると、「外科医は個人のセンスで腕に差が出るが、生来備えているものだけでなく、手術するほどに技術レベルが上がる」という。手術は症例数を重ねて技術が磨かれ、熟練度が増すとされ、症例数の格差が技術の格差につながり得る。

 ロボット支援手術は従来の腹腔鏡手術に比べて習熟が早いとされる。もっと普及するころには、技術格差が消えているかもしれない。しかし、今は過渡期。医療機関間、医師間による症例数の差が大きい。一挙にさまざまながん種に保険が適用され、当該のがん種で実施症例数を重ねているところは限られている。手術を受ける患者にとって症例数は、重要な判断材料の一つになると考えられる。

 そこで本誌は医療コンサルティング会社であるグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHCJ)のアドバイス協力を得て、ダヴィンチを導入している医療機関にアンケートを実施、ダヴィンチを使ったロボット支援手術の症例数などを調査した。

 医療機関の2017年症例数ランキング(がん種別。年間)を見ると、2012年度に全摘除が保険適用になった前立腺がんと、18年度から適用になる胃がんでは、症例数にケタレベルの差がある(次ページからの図表参照)。同じがん種で各医療機関の症例数を比較すると、医療機関間の差が大きい。

 ロボット支援手術において、医師はどれくらいの経験で習熟の手ごたえを得られるのか。国内で先駆けて胃がんなどを手掛けてきた宇山医師は「いい手術だと言い切れるまでに100例。当時はまだ日本で教えてくれる人がいなかったので、最初は海外から経験のある医師を呼んで学んだ」という。

 ただ、これは開拓者のケース。今は国内に指導できる医師がいて、テキストなど教材もいろいろあるので、複数の医師の声を総合すると、「腹腔鏡手術を習熟していれば、間をあけずに20例ほどの経験」が当面の目安という。

 なお、医療機関が保険適用でこの手術を行うには、指定された施設基準をクリアする必要があるので、医療機関がまったくの未経験で保険適用の患者に手を出すことはない。つまり、この基準をクリアするまで、医療機関は保険適用での手術を行わないことになる。

 また、ロボット支援手術の治療情報を全医療機関で統一的に集める登録システムを構築したうえで保険適用の手術を手掛けようという動きがあり、そうなるとシステム構築に時間を要するのでどの医療機関も4月に入ってすぐには保険適用に対応できないかもしれない。最大数ヵ月の空白期間が生じる可能性があり、保険適用での手術を望む患者はこの点も注意が必要だ。