●遺言作成は順調に進んだが……

 おふたりはあまり費用をかけたくないとのことでしたので、はじめは自筆証書遺言をお勧めしようかと思ったのですが、お話を聞いてから公正証書遺言をつくることを智恵子さんに提案しました。

 それは士業の第六感とでもいうのでしょうか。三浦家の場合は、あとあと揉めるのではないかと感じて、より厳格な遺言形式にしたほうがよいと思ったからです。

 原案の作成は想像以上に難航しました。その理由は、遺言者の智恵子さんが相続財産の大半を、長男である正さんに相続させることを希望していたからです。

 財産の主なものは土地と建物でした。相続発生時を想定し、法定相続人の兄弟2人の間で争いとならなければ、遺言者の意思を尊重すべきなのですが、今回の場合は未知数のため、慎重に対応しました。

 異例ではありますが、遺言をつくることを智恵子さんが家族に公言され、三浦家で家族会議が重ねられました。祭祀承継者に正さんがなると明記することで、当事者である正さんと次郎さんの合意も得られました。

 その後はスムーズに進み、公正証書遺言の作成が実行に移されました。私も証人として作成に立ち会い、遺言執行者には長男の正さんがなられました。

 それから1年半ほどの時が過ぎ、三浦利子さんから再び相談したいとの電話をいただきました。ひょっとしてお母様がお亡くなりになったのかもしれない。何かお手伝いできることがあればと思った私は、その日のうちに利子さんとお会いすることにしました。

 お会いすると、「実は、先日、夫の正が亡くなって……」と利子さんが泣き崩れたのでした。