そもそも、会社というものはゲマインシャフト(家族や村落など感情的な結びつきを基盤にした集団)ではなくゲゼルシャフト(目的達成のために作為的につくり上げた集団)です。もともと感情的な結びつきをベースに集まった集団ではないのですから、そのような場所で「好き嫌い」を表に出すこと自体がふさわしくない。それよりも、目的達成に集中すべきなのです。

 そして、あらゆる人間は、自ら価値があると感じる目的を達成することに喜びを感じるようにできています。多少、人間的にクセがあったとしても、この点は誰も変わりがないのです。

 だから、上司は、まず第一に、部下に対する「好き嫌い」の感情にかかわらず、全員を無理をしてでも公平に扱うことです。上司の“エコひいき”ほど、部下のモチベーションを低下させるものはないからです。

 それよりも、部下それぞれの強みに合った仕事を与えて、できるだけ任せることです。そして、彼らが目標を達成するサポートに徹する。「自分は価値のある仕事をフルに任されている」という確信さえもってくれれば、どんなにクセのある部下であっても、例外なく、ものすごく頑張ってくれて、確実に結果も出してくれます。そんな部下に対しては、自然とこちらも「好感」をもつようになります。合目的的であることに徹することで、それなりの人間関係も生まれるのです。

 こうしてチームが順調に動き始めるようになったころ、ある部署のリーダーから、こんなことを言われたことがあります。

「荒川さん、よく彼とうまくやれますね。人間が出来てるんですな」

 その人物は、かつて「彼」の上司を務めたときにニガい思いをしたことがあったのでしょう。そう言われて悪い気はしませんでしたが、一方でこうも思いました。「人間など出来てはいない」と。実際、当初、私もてこずったのです。ただ、合目的的であろうと努めるうちに、「扱いづらい」というレッテルを貼られたことのある部下とも、それなりの人間関係を築くことができたというだけのことなのです。

 しかし、数年後、別の部署に異動になったその部下から、「荒川さんと働いてたころは楽しかった」と聞かされたときは、複雑な思いがしました。そう言ってもらえて嬉しい気持ちもありましたが、そんなことを言うということは、今の職場で再び「扱いづらい」というレッテルを貼られているのかもしれないからです。

 もちろん、彼にも改善すべき点があるとは思いますが、リーダーとは「すべての部下を活かす」のが使命であるはず。安易にネガティブなレッテルを貼って、その部下の力を削ぐようなことは厳に慎むべきです。

 とはいえ、そのようなリーダーであるために、無理して人格者であろうとする必要などありません。ひたすら合目的的であろうと努めることで、どんな部下ともそれなりの人間関係を築くことはできるのです。