日本には、こんな厳しい競争はない。あるのは競合だけだ。真の競争とは1番も2番も根こそぎ危機にさらされるような状況を言う。だから米国には今や、家電量販店は1社しかないし、スポーツチェーンも本屋もバタバタと倒れている。

 そしてこうした姿は、いつか日本が迎える現実なのだ。

 例えば、私が米国視察に訪れた当時、日本では多店舗運営は5店舗が限界と言われていた。しかし米国でチェーンストアでは、「最低でも11店舗」だった。バイイングパワーに対する考え方が根底的に違っていたのだ。

 またショッピングセンターにしても、日本ではいまだにエンクローズドモールだが、米国では1980年代の形態であり、今はほとんどがオープンモールに変わっている。

 エンクローズドモールは四角いモールにある店舗を屋内の回廊で回るタイプだが、オープンモールは、外から店舗に直接行く形。そうすると、買いたいものがある店の前の駐車場にクルマをつけて、2~3分で売り場に行ける。全米ではすでに多くのオープンモールがあると思うが、日本も絶対にそうなっていくのだ。

 今、日本で売上高が数兆円もある大手スーパーが、いずれもショッピングセンター(SC)事業で苦戦している。出口を見いだせないでいると言ってもよい。しかし、米国の現状を見ていると、それは当然のことだと気がつかされる。それなのに発想を変えられずに同じようなSCをつくり続けている。

 商品にしても、自分のところで「お、ねだん以上。」を創造できなければ勝ち残れない。いわゆる製造小売業(SPA)への業態転換だ。同じ物であれば値段が3割以上安いか、3割以上は価値が高くないといけない。そのどちらかだ。

 それは、チェーン店が100店や200店の規模では実現できない。1000店規模を目指さなくてはSPAビジネスの基盤にはならないのだ。

 さらには人材がいる。1000店規模の店を黒字にできる仕組みやシステムと、それを創案できる人材が数百人規模で必要だ。でも人材を育てるには時間がかかる。徹底的にしごいて、それに耐えて育つことができる人材なら20年かかる。

 それもこれも全部、米国を見ていれば分かったことだ。3億人の人種も宗教も文化も多様で、それ故に、激烈な市場競争がある国でのビジネスの成功と失敗は、実は1億人のモノカルチャーの国の未来でもあるのだ。

 ロマンの実現のために、壮大なビジョン を掲げ、現実に学びながら(1)方向(2)方法(3)手順で修正していく愚直ささえあれば、人はなにがしかの成功は必ずできる。ニトリとは、そうした愚直なまでの人の取り組みの成果そのものだ。

(ニトリホールディングス 代表取締役会長兼CEO似鳥昭雄)