「このままでは倒産する」。私はうつ状態になり、死ぬことばかりを考えていた。

 そんな折、知り合いのコンサルタントから誘われたのが、米国の家具店を視察するセミナーだった。費用は40万円。大卒の初任給が5万円の時代で、当時の懐事情では厳しい出費だったが、なんとか工面して参加した。「再生のタネを見つけたい」と藁をもすがる思いだった。

 ハワイ経由で米国西海岸に降り立ち、百貨店「シアーズ」の家具売り場や、家具専門店のチェーンストア「レビッツ」などを見て回ったが、度肝を抜かれることの連続だった。

 モデルルームは70~80坪という広さ。玄関を入るとすぐ右手にゲストルームがあり、その奥にリビングがある。台所はシステムキッチンで、2階にはゲストのための寝室があり、トイレが1階だけでなく2階にもある。

 なによりも驚いたのは、家具の視察だったにもかかわらず、洋服タンスや整理タンスといった“箱物家具”がないのである。米国では、家の中にクロゼットがあつらえてあったからだ。

「家具がないことが豊かな暮らしの証し」なのだった。

 シアーズを訪ねれば、家具ではなく、3色でいろいろな柄が描かれた壁紙やカーテンが売られている。壁を自分でコーディネートするためだった。

 セミナーの参加者は50人ほどだったが、誰もが「米国と日本は違う世界だ。食生活も文化も全てそうだね」といった感想を口にしていた。しかし私には、そうは思えなかった。

 よくよく見れば、目の前にある全てのものが貴重な情報に思えてくる。品質や機能は素晴らしいし、用途や価格帯も絞り込まれている。色やデザインがしっかりとコーディネートされている。つまり、家具(ファニチャー)とファッションが同時に提案されているのだ。日本ではメーカーが作った商品を単に並べているだけ。お店としての提案はないから、お客さまにセンスがないと、部屋はちぐはぐなコーディネートになってしまう。

 しかも米国の家具は安い。日本と比べれば価格は3分の1。裏を返せば米国の人たちの所得価値は日本の3倍ということになり、米国の豊かさは「モノの値段」から来ていることを理解させられた。便利さや安さが、豊かさの源泉にあったわけだ。

●覚醒したら“馬鹿”がつくほどいちずであれ

 セミナーに参加した人たちは、米国の家具や、ハウスコーディネートの「技術」に注目していた。私も、安くて高い品質や、機能を実現していることに感動していた。

 ただ、今となって振り返れば、他のセミナーの参加者と私の違いは、「こんな豊かさを日本でも実現したい」と思ったかどうかだった。私の力で日本の人の給料を3倍にすることはできないが、価格を3分の1に下げることはできるのではないかと考えたのだ。

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