こういうときに最もいけないのは、落ち込んだ気持ちのまま何か重要な判断をしようとすることです。慌てて何かをすると必ず墓穴を掘ります。精神状態がおかしくなっていると思考も歪んでしまうからです。

 だから、ひどいショックに襲われたときは、そこから一旦立ち退くことです。努めて、そのことを考えないようにする。そして、運動をして身体を疲れさせて、ぐっすりと眠るのです。翌朝、起きたらパワーウォーキングに出かける。ぐっすり眠って、爽快な汗をかけば、気持ちがすっきりします。こうして体調、心理状態ともに健全な状態になってから、はじめて「打ち手」について熟考。そして、決断するのです。

 ところが、頭のいい人ほど、このような局面で無理に頭を振り絞って拙速に判断しようとする。これが危ない。普段はどんなに頭の切れる人でも、精神状態が悪ければ判断を間違えます。思考の根っこが揺らいでいるのだから、当然のことです。なかには、あまりのショックから病気になってしまう人すらいます。

 だから、重要なのは体力なのです。身体を鍛えている人ほど体調の回復は早い。ショックを受けても、しっかり休養をとればすぐに体調は戻ります。そして、体調が整えば感情が整い、その結果、思考の精度も高まる。だからこそ、危機的な局面においても、正しい判断を積み重ねて状況を変えていくことができるのです。

 近年、私は年齢を重ねるのは素晴らしいことだと思うようになりました。

 なぜなら、若いころよりも知識も経験もネットワークも豊富にもっているからです。それをフルに活用すれば、若いころよりもはるかに優れた仕事をすることができる。ただし、条件があります。それを正しく使えるだけの体力を維持しておくことです。体力があれば、確かな思考を働かせることができます。そして、何歳になっても充実した生活を送ることができるのです。

 だから、若いころから身体を鍛えることを習慣にしてほしいと願っています。一週間のスケジュールを立てるときに、まずエクササイズの時間を確保するくらいでいいのです。どんなに目の前の仕事が忙しくても、長期的な視点で見れば身体を鍛えておくことのほうが重要です。特に、重要な判断をしなければならない経営者や企業幹部には必須の条件と言ってもいいでしょう。

 もちろん、この歳になって、毎朝、雨の日も風の日もウォーキングに出かけるのが億劫になることもあります。そんなときには、「俺は人がやらないことをやっている」と自分を励ましています。そして、いつもの日課を果たせば、すっきりといい気持ちになります。その日を最高の状態でスタートできるのです。これからも、この習慣を続けて、最高のパフォーマンスを出し続けたいと考えています。