「レヴィ=ストロース先生は『普遍的なのは、むしろインセスト(近親相姦)だ』とも言っているのです。それは、近親での結婚によって、財貨の目減りを防げるからです。王族という強者のインセストでは、特権や聖性を守れるため、政略的に行われる。庶民という弱者のインセストでは自分たちの財産を守るため。田畑などの財産が相続され分散を防ぐため、“同類”の中で嫁のやり取りをする。結局、権利や利害を守るためです。その近親の度合い、つまり近親を何親等までの範囲にするかが時代、社会によって変わるのです。しかし、最低限の女性の交換をしないと社会が成り立たないので、インセストタブーも同時に存在するのです」(川田氏)

●人間の本能は近親相姦を嫌う!?

 また、近親相姦の禁忌について最近、重要視されているのが1891年に人類学者のエドワード・ウェスターマークが提唱した「幼少の頃からきわめて親密に育った人々の間に、性交に対する生得的な嫌悪が存在する」という説だ。「ウェスターマーク効果」と言われている。

「ウォルフという人類学者の調査によって、ウェスターマーク効果が統計学的に復活してきました。本当の兄弟姉妹であろうが、血のつながっていない養子や継子であろうが、幼少時から一緒に育った男女は、成人してもその相手と性交したがらないという結果が出たのです」

「別に学問的に考えなくても、単純に自分の兄弟姉妹や親に欲情する人はいないでしょうから、これは実感として、納得できる人は多いでしょう。この100年以上前の学説がいま見直されているんですよ。ただし、幼少の頃から一緒に育つことにより近親性交の回避が起きる理由については、ほとんど分かっていません」

 ウェスターマーク効果は本能的に近親相姦の禁忌が存在することを証明し、レヴィ=ストロースの説は文化の面で近親相姦の禁忌がある理由を説明している。このような人文科学系のアプローチに自然科学系のアプローチが加われば、今後、タブーとされてきた意味の解明が、より進むかもしれない。