3月末に、格安旅行会社のてるみくらぶが破綻に追い込まれたように、旅行業界では薄利多売のビジネスモデルに限界が見えている。

 事業場単位から企業単位へ。大企業の本社めがけて一点突破で監督する体制は効果的で、すでに6社の書類送検に踏み切っている。

 靴販売チェーン「エービーシー・マート」、外食チェーン「フジオフードシステム」、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」、外食チェーン「サトレストランシステムズ」、スーパーマーケット「コノミヤ」──。そして、「電通」が続いた。

 今後、厚労省は監督体制の効率化をさらに加速させる。昨年4月、労働局47局に「かとく監理官」を設置したのもそのためだ。

 各労働局にいるかとく監理官がハブとなり、タテの連携(傘下の労基署から情報を吸い上げる)やヨコの連携(県境を越えて別の労働局と情報を共有する)を深めることで、全国展開する大企業の“組織的犯行”の芽を探そうとしているのだ。

 任官25年目の吉村賢一・監督官は滋賀労働局のかとく監理官に任命された。「労基法32条の長時間労働の送検事案を多く手掛けており、経験値があった」(吉村監督官)ことが選ばれた理由のようだ。

 もともと、滋賀県は製造業の工場が多く集積しており、規模の小さな局の割には複雑な労働問題を扱う局として知られる。

 2007年に発生した居酒屋チェーンの過労死事件の記憶が、県全域の監督官の脳裏に焼き付いていることもあり、「滋賀県は監督官それぞれが、過重労働問題にアンテナを立てている地域」(同)なのだという。かとくによる指導・捜査の広域展開は、一層きめ細やかになっていくだろう。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 浅島亮子)