それぐらい、監督官の権限は極めて強い。ガサ入れもできれば、被疑者の逮捕・送検もできる司法警察官でもあるからだ。

 だが、そうした見た目の華やかさとは打って変わって、監督官の仕事は地味そのものだ。

 かとくの業務とて例外ではない。電通の捜査では、朝から晩まで「捜査部屋」に缶詰めになって籠もって、ひたすら電通の本社社員6000人分の勤怠管理データを一件一件入力し、違反がないかどうか、丁寧に確認作業を行った。

 電通の就業規則は、部局ごとに細かく規定されており、膨大な作業量になる。ガサ入れ時には、東京中の労働局から監督官をかき集めて40人まで増員したが、実際の地道な作業に関わったのはほんの数人だった。

 地道な作業のかいあって、4月25日、法人としての電通と支社幹部ら3人が、労働基準法違反の疑いで書類送検された。

 そして──。電通捜査が一段落したことで、世間の関心は、かとく部隊が狙う「電通の次」に移っている。

●「お分かりですね」と言われるほどの旅行会社の厚顔無恥

 実は、現在、東京かとくが照準を定めているのは、大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS、本社は新宿区)である。

 その事実について、「捜査をしているかどうかも含めて答えられない」(東京労働局)としているが、社員2人に対して月100時間を超える時間外労働をさせた労基法違反の疑いで書類送検する方針を固めているようだ。

 ある厚労省関係者によれば、「電通事件のように、世論を気にして何としても挙げなければいけないケースとは違う。ありていに言えば、お分かりですよね?という事案だ」。監督官による再三の勧告にもかかわらず、HISでは違法行為が疑われることが繰り返されたようだ。

次のページ