というのは、“保険”の意味をまったく理解していないとしか思えないからです。保険とは、基本的にはもしものことがあったときへの備えとして用意されるべきものです。だから、すべての児童に支給すると言っている時点で、裕福な家庭の子どもも貧しい家庭の子どもも対象になるので、それは保険とは言えないのです。保険料の名を借りて国民から強制的に原資を徴収しようというだけです。

自民党若手の世論迎合的な発想 なぜ幼児教育・保育だけが対象に?

 ただ、それ以上に個人的におかしいと思うのは、すでに述べたように私立高校の授業料への補助で大きな格差も生じるのに、なぜあえて幼児教育・保育にだけフォーカスするのかということです。おそらく、待機児童問題がメディアで大きく報道され、国民の関心が高いからではないでしょうか。

 でもそれって、言葉を変えて言えば単なるポピュリズム、世論に媚びているだけです。教育格差が将来の所得格差につながることを考えると、特に第四次産業革命により日本でも格差が一層拡大する可能性がある中では、幼児教育や高等教育など教育の特定分野に限定せず、トータルのパッケージとして教育全体をどう改革するかを示すのが、政治家の役目ではないでしょうか。

 このように考えると、安倍首相の最初の問題提起は正しかったのにもかかわらず、その後の教育をめぐる個別の政策論議は随分おかしな方向に行きつつあるように感じます。

 しかし、教育政策のポピュリズム化とも言えるこうした動きで、日本の教育全体が良くなるとはとても思えません。それを防ぐためにも、憲法改正とは別次元の問題として、様々な環境変化に直面する今の日本で、憲法で保障された“教育を受ける権利”を全国民に行き渡らせるためにはどのような制度改革が必要か、という根本からの骨太な議論を、官邸主導で早く始めるべきではないでしょうか。

(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 岸 博幸)