●正社員もピンチ スキルで評価されるシビアな改革

 もっとも、日本的な雇用慣行のひずみが噴き出していたことも事実ではある。経営者が、(職務・勤務地・労働時間が限定されていない)無限定社員を酷使したり、電通のように長時間労働に加えてパワーハラスメントが放置されたりといった事態は看過できない。

 労働改革の敢行は急務だった。企業に痛みを強いるのは当然といえるかもしれない。

 政権の罪は、労働者保護の視点に立った働き方改革であると宣言しておきながら、改革を本気で推し進めたときに労働者に降り掛かる厳しさについては国民に伝えていないことにある。

「働き方改革は、労働者保護ではなく、経済成長のツールにすぎない」(厚生労働省幹部)からだ。

 職務給が徹底されたならば、労働者が「時価評価」されることになる。何年働き続けたから、何時間働いたからでは評価されずに、スキルや成果で評価される。労働者個人にも生産性が求められるようになるのだ。

 特に、生産性の低い正社員にとっては耳の痛い話だ。飛躍的な成長を望めない国内では、企業が人件費原資を増やすことは考え難い。非正規労働者の待遇を底上げしたしわ寄せは正社員へ向かう。じきに、正社員の既得権益は剥がされていくことだろう。

 つまるところ、日本が経済成長の道を選ぶ限り、企業は人材への投資を、労働者は自己研さんを続けるより防衛手段はない。「一億総活躍ではなくて、一億総勉強の時代になる」(政府関係者)。企業と労働者の双方にとって、極めてシビアな世界が待ち構えている。