神奈川県川崎市のセブン-イレブン「川崎登戸駅前店」(写真/Takeshi Yamamoto)
神奈川県川崎市のセブン-イレブン「川崎登戸駅前店」(写真/Takeshi Yamamoto)
セブン-イレブンのホットカフェラテ専用マシン
セブン-イレブンのホットカフェラテ専用マシン

 セブン-イレブン・ジャパンは商品やサービスの「実験店」を密かに拡大している。実は現在ヒットしている入れたてコーヒーもドーナツも、密かに一部店舗で実験を繰り返し、全国デビューを果たした商品だ。実験店はこれまで首都圏の都心店や郊外店など極めて一部の店舗に限っていたが、全国の20店に拡大した。なぜ、セブン-イレブンは実験店を広げるのか。そこには周到なマーケティング戦略が隠されていた。

●「地域」の差にこだわるセブン-イレブン

 神奈川県川崎市の「川崎登戸駅前店」のレジ横には、いつもの入れたてコーヒーと少し違った機械が置かれている。そこには「ホットカフェラテ専用マシン先行導入」というPOP(店内広告物)がつけられている。そう、これが実は2月から全国に拡大するホットカフェラテの実験だったのだ。

 同店ではすでに相当前からこのカフェラテの実験機が置かれており、近くに住んで気がついた人は、カフェラテを先行して味わえた格好だ。こうした入れたてコーヒーやドーナツは、それほど全国的に嗜好差がないとみられるが、これが弁当や総菜となると、そうはいかない。地域の嗜好差は歴然としてくる。

 コンビニではすでにおでんなどは出汁を変えたり、具材を変えたりして“地域の味”に仕立てて販売している。しかし、これまで弁当や総菜については、まだ全国一律の味付けなどといったところが少なくない。

「セブン-イレブンの看板はすべて同じでも1店たりとも(商品やサービスは)同じであってはならない」――。

 同社のカリスマ経営者だった鈴木敏文名誉顧問がかつてこう話したことがある。鈴木氏はそれほど「地域性」にこだわった。同じ顔をしているようで「北の店舗」と「南の店舗」では違う中身。それが「小売業の原点」という。

 外食チェーンなどではよく、同一企業の経営なのに店舗名を変えたり、コンセプトを変えたりして次から次へと新業態を出していく。コンビニにも一部チェーンで、新業態を出すチェーンもある。

 しかし看板を替え、店のコンセプトを変えてしまってはコストの分散化になるし、消費者も戸惑うので、セブン-イレブンは一貫して全店「セブン-イレブン」という看板を掲げている。ファミリーマートがサークルKサンクスとの看板統合を急ぐのも、コストが分散するからだ。

 もっとも、看板ならば簡単に取り替えることができる。

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