本書では、オープン・クローズ戦略の一例として、グリコの「ポッキー」が挙げられている。ポッキーは、持ち手の部分にはチョコレートがかかっていないため、手を汚さずに食べられる。

 これは外見上の特徴なので、もちろんオープンになっている。しかしそのようにチョコレートをコーティングしたお菓子を大量生産する機械を作るのは、実は難しいのだ。グリコはその機械は自社開発し、設計が社外に絶対漏れないようにしているそうだ。

 グリコは、ポッキーの形状のアイデアについては特許を出願していない。その代わりに、発売時に「実用新案」を取得している。

 実用新案とは「物品の形状、構造又は組み合わせに係る考案」であり、有効期限は6年間。その間は同じ形状のお菓子を他社は販売できなかったが、6年たって権利が切れたあとも、しばらくは類似商品は発売されなかった。他社が似たような商品を出したのは、ポッキー発売から実に17年後のことだったそうだ。

 これは、グリコがクローズにしている秘密の技術を、他社が独自に開発するのにそれだけの時間が必要だったということではないか。

 もしグリコがポッキーの製法で特許申請をしていたら、その内容が1年半で公開されるところだった。仮に特許が取得されたとしても、他社が権利を侵害しない範囲で真似をするのは十分可能なので、もっと早く類似商品が世に出回った可能性がある。実用新案でアイデアを守るという判断は、戦略的に正しかったといえよう。

 こうした例からもわかるように、いまや知財保護といえばすぐに特許取得を考えるのではなく、多様な選択肢の中から戦略的に方法を選ぶべき時代なのだろう。(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)