アサヒビール元会長兼CEOの福地茂雄氏の最新著書『アサヒビールで教わった 自分の壁を一瞬で破る最強の言葉』から、仕事をやり抜くうえでの血肉となる「最強の言葉」を紹介する。第1回は、スーパードライ誕生前、最下位転落目前となったアサヒビールが大改革に打って出るに至った「最強の言葉」。
●「最下位寸前」まで落ちたアサヒビールの油断
人や企業は、得意の絶頂にいるときに、大きな落とし穴にはまります。
苦労の末にようやく大臣の椅子を手に入れた代議士が、軽率な発言で失脚することがあります。企業でも業績が好調のときにかぎって不祥事が発覚したり、事故が起こったりしやすいものです。
なぜ、好事魔多しとなるのでしょうか。
理由は、「油断」です。
絶頂感に浸っているときには、いつもなら気がつくはずの危険な兆候を、つい見逃してしまいます。また、何かが起こっても「大丈夫だろう」と軽率な判断でことを済ませようとします。
そこに落とし穴が生じます。ですから、ことを成し遂げたときこそ、気を引き締め、緊張感を保つように心がけるべきです。
ただ、好調期に落とし穴にはまるより、はるかに厄介なケースがあります。
過去にしがみついて現実を直視できず、未来に向かって進むことができない人や企業がそれにあたります。
落とし穴どころか、長く暗いトンネルがどこまでも続いていくような状態です。
かつてのアサヒビールも、似た状況に陥っていました。
ぬるま湯の中のカエルが、強烈な危機感を抱くときがきました。
ビール業界は戦後の1949年、シェア75パーセントを誇る大日本麦酒が過度経済力集中排除法の適用を受け、朝日麦酒(現アサヒグループホールディングス)と日本麦酒(現サッポロホールディングス)に分割されました。
ところが、アサヒビールのシェアは分割直後のころがもっとも高かったのです。