「日米防衛協力のための指針」(ガイドラインズ)は、その核心である「日本に対する武力攻撃が発生した場合」の「作戦構想」として英文では「日本は日本国民及び領域の防衛に引き続き一義的責任(プライマリー・リスポンシビリティ)を有す。……米軍は自衛隊の日本防衛を支援、補完する」としている。自衛隊は防空、弾道ミサイル防衛、周辺海域での船舶の保護、陸上攻撃の阻止、撃退などに「一義的責任」を有すると決め「必要が起れば陸上自衛隊が島の奪回作戦を行う」とする。

 自衛隊が日本の防衛に「一義的責任」を負うのは当然とも言えるが、言わずもがなの語句を入れているのは、もし米軍が何もしなかった場合でも「一義的責任はそちらにあると書いてあるではないか」と言えるようにしたと考えられる。

 これでは日本で「では何のために米軍に基地を貸し、莫大な補助金まで出すのか」との疑問が出るから、邦訳では「自衛隊は一義的責任を負う」の個所を「自衛隊は主体的に実施する」とごまかしている。このガイドラインズは自衛隊がすでに日本防衛の能力と責任を持っている実態を追認したものだ。

●自暴自棄になった相手に抑止力は通用しない

 もしトランプ氏が言うように米軍が撤退しても、純粋、あるいは狭義、の日本の防衛に大穴があくことはないが、攻撃能力を示して相手に攻撃をさせない「抑止」はどうなるか、も考えねばならない。

 だが抑止戦略は相手が「反撃を受けるから攻撃は見合わせよう」と考える理性的判断力を持つことを前提としている。冷戦時の米ソ間では「相手も自殺行為はすまい」との最少限度の信頼感はあったから、相互核抑止が成り立った。北朝鮮が崩壊の渕に立ち、指導者が「死なばもろとも、ある物は使ってしまえ」と自暴自棄の心境になれば抑止は効果がない。

 仮に第2次朝鮮戦争が起き、通常戦力が衰弱した北朝鮮が核ミサイルを発射するなら、まず韓国軍と在韓米軍の指揮中枢や基地、補給拠点10数個所、次いで朝鮮半島に出動する在日米軍の基地やグアム島の基地を狙う公算が大きい。もし米軍が日本から撤退していれば、限られた数の核弾頭(当面は10数発)を横須賀、横田、佐世保、三沢、岩国、嘉手納などに向ける意味はなくなる。

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