●残業禁止が生んだ、とある企業の悲劇

 今回の電通過労死問題を受けて、あちこちで「働き方革命」とか言われているが、何も新しいことを考える必要などない。かつての日本企業にあった、ゆるくて寛容な企業文化に戻すだけで、ずいぶんと働きやすくなると思う。それをたんに労働時間だけの問題にして、一律に残業禁止にすれば、企業はどうなるだろうか。

 これについてはいま、面白いブログ記事がネットでちょっとした話題になっている。はてな匿名ダイアリーに投稿された「定時退社を導入するとどうなるか」という記事だ。投稿者が勤めている会社では1年前から定時退社を導入。「サービス残業、休日出勤、持ち帰り残業も厳禁。定時になると文字通り締め出される」という完全残業禁止体制になったわけだが、それが1年でどうなったかをレポートした記事だ。その記事によれば、会社は次のように変わるという。

(1) 余計な仕事をしなくなる。命令できなくなる
(2) ボトムアップから、トップダウンになる
(3) 会議・ミーティングが減る

 会議・ミーティングが減るのは良いことだと思うかもしれないが、そうではない。「時間の無駄を省くために、会議は合意形成の場ではなく、上意下達の場になってしまう」というのだ。そして、こうも続く。「この1年を通じて勤労意欲は激減した。他人の仕事を進んで手伝うこともしなくなったし、突発的な仕事や他人から頼まれる仕事を憎むようになった。新しい仕事の企画も考えるだけ無駄なので、考えなくなった」。

 もし会社がこのような状態になったら、生産性が上がるはずもない。結局、長時間残業も残業禁止も、「一律」を強いると会社も社員もダメになるということだ。やはり、生産性を上げながら過労死を防ぐためには、かつての電通のような「自由」を日本企業が取り戻すことが、最も有効だと思うのだが、いかがだろう?(ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表 竹井善昭)